【鬼】
その日の早朝、ゴーダンの港に謎の難破船が打ち上がった。嵐どころか、快晴であった海には激しい波などなかった。
街の住民の通報を受け、様子を見に行った警官一人が何者かに襲われた。その連絡を聞いた警官隊がそこに到着すると、そこには十二人の男女が佇んでいた。その足元には、警棒で叩かれたような様子の警官が倒れていた。
「『難破船に見せかけて入国審査を受けない、これは良い考えだとは思ったが、入国審査がない上に・・・人間が武器を向けてくるのは想定外だ』」
「『やはり、最初から小細工無しに仕掛けたほうが良かったのですよ』」
「『どうでもいい。私は全部壊してやるよ。何もかも!』」
「『焦らない、まずは、この国の、地形の、把握が、最優先』」
「『私の計画は失敗しない。鰐は騙せなくとも、人は騙せるわ』」
「『・・・』」
「『私は全てを見れればそれでいい』」
「『戦いたけりゃ勝手にやって頂戴な。私は自分との戦いがあるんでねー』」
「『わう! とにかく、こいつら倒せばいいの!?』」
「『俺だけでも十分だぜ? こんな奴ら』」
「『姐さん! ここはおいらに任せてください!』」
「『いいわよ、寅。やってみなさい』」
警官隊には、彼らの話の内容が分からなかった。伝わったのは、寅から放たれる邪悪な【気】だった。
「『水の鬼、名は【海鳴】。我が言霊の名のもとに、その身を現せ』」
寅が、人のような形の紙を投げた。宙を舞った紙は、突然姿を変え、異形の怪物へと変化した。
「うがぁああああああああ!!!」
怪物の雄叫びは街中に響いた。警官隊がそれに怯むと、怪物は警官隊を薙ぎ倒し始めた。
「うぁああああ!!」
「ぎゃぁああ!」
警官隊が全滅するのに、時間はかからなかった。
「『日の本の国の武士もですが・・・人間とはこうも弱いのですね』」
「『しょうがない。それほど力の差があるのだから』」
「『此処からは、みんな散らばりましょうか。この国は広い。まずは此処の周囲を占拠しましょう』」
「『良いねえ』」
彼らは、港から散り散りに何処へともなく向かった。
そして、数時間後アニマ達とアリスが港に到着した。
呼び出された怪物は、ずっと海の中で潜んでいた。
「おい! 下がれ! 危険だ!」
「人間風情が騒がないことね。貴女からは魔力を感じないし」
「魔力? 何を言っている?」
「類、人目を気にすることはないわ。思い切りやりなさい」
「はい」
類はナイフを取り出し、怪物に投げつけた。ナイフは次々と怪物に当たり、ことごとく弾き返された。
「な・・・」
「類!」
怪物の腕が振り下ろされた。類は腕を避けると、右拳で怪物の顎を殴り上げた。怪物は怯み、仰け反った。
「はぁ!」
類は飛び上がり、怪物の顔に蹴りを入れた。怪物はそのまま、海に落ちていった。
「いけた・・・でしょうか?」
類は振り向いて、アニマのもとに向かっていった。しかし、すぐにもう一度振り返ることとなった。
「うがぁあああああああああ!!!」
「!?」
海に落ちた怪物が、もう一度類に腕を振り上げていた。
「間に合わ・・・」
「うがぁあああ・・・!?」
ほんの一瞬の出来事だった。怪物の体中に、幾つものタロットカードが突き刺さっていた。
「素人風情が騒ぐんじゃない。センスはいいが、実戦経験は少なそうだな」
三人の後ろから、アリスがタロットカードを投げていた。
「『ここいらでしょうかね』」
辰蒔は、レトサムに到着していた。そして、指を鳴らした。同時に空の色が変わり、雲によって空が覆われ、雷鳴が轟いた。
「『任務開始』」
雷を合図として、何体もの怪物が現れた。道行く人々が悲鳴を上げる。
「『さあ! 祭りの始まりです!』」
晴天のギルバート王国で、レトサムだけが嵐になった。
「『鬼たちよ! 我らが使命のために、進め!』」




