侵略者の痕跡
「侵略者・・・って、まさか東方の国から!?」
神菜子が驚愕の表情を浮かべた。
「いや、有りうるわね・・・。東方の国には一度しか行ったことがないけれど、この国とは常識からまるっきり違うもの」
「え?」
「妖猫寺家と交流があったのは、妖猫寺家当主の【妖猫寺麟之助】がムイラク語(ギルバートの国語)が話せたからなのよ。だけど、麟之助との会話も常識の違いで少し咬み合わない所があったわ」
「・・・例えば?」
「あっちの国では、妖怪と呼ばれる人外が闊歩していて、妖怪は人間を襲い、人間は陰陽師と呼ばれる向こうの国での魔法使いに助けを求め、陰陽師は必要に応じて妖怪を退治する。これは、私達魔族が隠れて暮らすこの国では考えられないでしょう?」
「確かに・・・」
「~~~!」
「『私は侵略者の船に忍び込んで此処まで来た』『父親は奴らに殺された』!?」
「なんですって! 麟之助が・・・?」
「ひどく慌てています。急いで本土に戻ったほうが・・・?」
「仕方が無いわね。アリオス、バーベキューはまた今度誘ってもらえると嬉しいわ」
「アニマ嬢!? 船が出るまで時間があるぞ!」
「いいのよ。類! 神菜子を背負って行けるわね!」
「お嬢様が望むなら」
「え、えぇ!?」
「私は先に行くわ! 類、追いついてね」
「了解」
アニマと類が会場を抜け出すのを見て、神菜子も戸惑いながらも追いかけた。
「行っちゃいましたね」
「行くのはいいが・・・連れてきておいておいてくなよなぁ」
アリオスは、地べたに座り込むなゆたを見下ろした。
「それにしても、外国からの侵略者なんて初めての体験かもしれないな」
「侵略したことならありますけどね」
「人聞きの悪い。俺は救世主なんて呼ばれたんだぜ?」
「テレサにとってもですよ」
「そうかい」
「本土に戻りますか?」
「そうだな。・・・この娘も連れていくか」
「保護、ですね」
「ああ」
アリオスには見えていた。なゆたの力が。
「コミュニケーションは俺が取る。テレサは街で船一艘買ってこい」
「了解!」
テレサは満面の笑みで街へ向かっていった。
「さてと、『お前、俺達に協力しないか?』」
「いやぁああ!! た、高い!」
「暴れないでください! 落ちますよ!」
「うひゃあ・・・」
類は、神菜子を背負いながら海の上を飛んでいた。前方には日傘をたたんで飛んでいるアニマがいた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「吸血鬼とて、一瞬で灰になるわけじゃないわよ。三分に一回日傘で日光を避ければ大丈夫よ」
「そう・・・ですか」
そうこうしてる内に、三人は港に到着した。類とアニマは、人目を避けて降り立った。
「これは・・・!?」
そこに広がっていた光景に、三人は言葉を失った。
「あぁ・・・ぐ・・・」
「・・・」
死屍累々と横たわる警官隊の姿がそこにあった。
「どういうこと? 手遅れか・・・!」
「お嬢様、急ぎましょう。侵略者を探すより先に、吸血館へ!」
「分かってるわ!」
三人がレトサムへ向かおうとしたところに、一つの人影が近づいていった。
「待ちなさい!」
「?」
「私はアリス。連絡を受けて来た警察よ。この警官たちを打ちのめしたのは貴方達?」
「いえ、違います」
「・・・そう。嘘ではなさそうね」
「?」
「貴方達には教えといてあげるわ。この警官たちは、十二人の男女と得体の知れない生物に遭遇したと連絡してきた。危険だから、早く安全なところへ行きなさい」
「・・・詳しく話してもらっても?」
「その時間はない・・・!」
突然海の中から、『得体のしれない生物』が現れた。
「ば、化物・・・?」
頭から角が生え、筋肉質な体、そして体を覆う真っ赤な皮膚が威圧感を放っていた。
「・・・お嬢様」
「いいわ、やっちゃいなさい」
類は、怯む様子もなくその生物に向き合った。
「・・・甘くて苦いお菓子はいかがでしょうか」
類は懐中時計を取り出した。




