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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
32/67

そして船で

 船は色々な港を巡って、最終的に小島に着くパーティー専用のルートになっていた。潮風はとても肌寒く、類は手持ち鞄の中からコートを取り出した。

「道中は平気でしたが、海上は寒いですね」

「? 中は暖かいわよ、類。わざわざ外に出るの?」

「はい、僕は此処で」

「ふーん、まあ類が良いならいいわ。行くわよ、神菜子」

「あ、はい。類、来たくなったら来てね」

 類には、船の中に入る気はなかった。類はアルコールの類が極端に苦手で、飲める限度は精々ワイングラス一杯程度だ。あのままアニマに付いて行けば、アニマに勧められ飲まざるを得なくなっていたであろう。この手の客船には必ず簡単なブッフェが用意されているものだ。

「さてと、どうしましょうかね」

 類は甲板へ上り、周りを見渡した。既に幾つかの港を通ってきたのか、まばらにではあるが客が乗っていた。その中に、一際目立つ人物がいた。

「・・・」

 その男は、茶色の髪の毛をなびかせ海を見つめていた。その男はギルバート王国では有名な男だった。

「・・・アリオス・リーヴァ?」

 ギルバート王国には大きく分けて五つの地域がある。東西南北の土地と、王族や貴族が集中する中央街だ。東西南北の土地の内、レトサムとゴーダンが属するのは漁業が盛んな南の土地である。アリオスは、製造業の盛んな東の土地にある【ギランダ】で民間軍事会社【カーリー】の社長をしている。

 カーリーは軍事会社とは言っているが、実際は依頼さえあれば人探しから戦争までこなし、依頼の達成率は九十パーセントとも言われている。そのため、様々な人がお世話になっていることが多く、社長のアリオスはとても有名である。

「社長ともなると、招待状も簡単に手に入ったんでしょうね」

 類はアリオスに興味をもつような様子は見せず、甲板のどこかへと歩き出した。






「う~ん、良いわね。ビュッフェ!」

「そうですね。船の料金だけで食べ放題なんて」

「まあ、お金の心配はいらないんだけどね」

 口いっぱいに果物を頬張るアニマと、タマゴサンドをちびちびと食べる神菜子は現在船の中の食堂に居た。

「類も来ればよかったのに。類の好きな外国のお茶とお菓子もあるのにね」

「それにしても珍しいですね、外国の食べ物がこんなに」

「パーティーにも出るだろうから、先に見知って貰おうとしてるんじゃないかしら。パーティー会場で初見で、外国人がそれを食べてるを見たら驚くだろうし」

「まあ・・・この緑色のお茶とかは初めて見ます。この黒い立方体とか」

「黒い立方体、美味しいわよ。甘々の大甘よ」

「本当ですか!?」

「美味しいわね、【ようかん】」

「・・・あれ?」

「どうしたの?」

「あの人・・・」

 神菜子が指したのは、不思議な髪をした少女だった。床に付くか付かないかという長さの髪だが、念入りに手入れされているようだった。

「あの娘・・・何か・・・」

「? どうしました?」

「・・・いえ、なんでもないわ。さて、次はどれを食べようかしら。この硬そうなクッキーみたいなのはどうかしら」

「お嬢様・・・それしょっぱいし辛いです」






「『姐さん! 大変っす!』」

「『何? 寅』」

「『持ってきたせんべい、全部湿気っちゃってます』」

「『ま、まあそれはそうだろうね。もう日の本の国から出てどのくらいになるのかもわからない』」

「『大体三週間くらいですかね?』」

「『それだけあれば煎餅も湿気るよ』」

「『むぅ』」

「『一体いつになったら罪の国には着くのかね』」

「『さあ?』」

「『卯鷺の計画は予定時間も教えて欲しいものだね』」

 海原をいく船は、日の本の国を出て罪の国へ向かっているという。

「『罪の国の侵略計画。達成できるといいっすね!』」

 寅と呼ばれた少年が、無邪気に笑った。

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