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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
東方編
29/67

ソルクロック

 悪魔との戦いから十数日。クリスマスを過ぎ、新年を迎え、リナリアも吸血館の仕事や使用人に馴染んできた頃。街は新年のムードも無くなって、チラホラと店も開き始めた。その中に、一軒の時計屋があった。

「いやぁ、いらっしゃい」

「こんにちは。諏訪子さん」

「久しぶりだねぇ、類くん」

「二ヶ月ぶりですよ。新しい時計が必要になったので」

「いいねぇ、高い奴にするぅ?」

「構いませんよ」

 時計屋の店主【朝日諏訪子あさにち すわこ】は、店の奥から一つの木箱を取ってきた。

「これなんてどう? クロノス社の最新懐中時計でぇ、御値段は十万飛んで五千だよぉ」

「クロノス社なんですね? じゃあ、それで」

 クロノス社とは、この国で一番優秀な時計製造会社である。量より質、外見より能力を重視した時計を作るため、とても人気がある。

「うちも一個しか仕入れられなかったんだよねぇ。まあうちに来るお客さんなんて類くんくらいしか居ないけどぉ」

「そ、そうですか」

 この時計屋【ソルクロック】は吸血館からそう遠くない商店街にあり、ほかの店に比べてとても暗く近寄りがたい。街の子供からはお化け屋敷と言われることもある。店主の諏訪子も自覚はしているが、怠惰な性格の彼女は何も行動しないのでお化け屋敷のままである。更に、諏訪子本人も時計技師であり時計いじりが好きなため、寝不足による目の下の濃いクマ、ボサボサの髪の毛、視力を矯正するための丸メガネで、暗い店内と合わさって不気味である。しかし、同じ時計好きである類は意気投合してこの店の常連にまでなっている。

「類くーん、ぴったり十万にするからお茶淹れてよぉ。喉渇いたのぉ」

「別にただでやりますけど。いつもお世話になってますし」

「悪いねぇ」

「いつもの緑色のお茶でいいんですか?」

「そうそう。この国じゃ飲めないからねぇ」

 類は店の奥に進み、「だいどころ」と書かれた部屋に入った。散らかった床を見ると、類は諏訪子に問いかけた。

「諏訪子さん? 茶葉が埋もれてどこにあるのか分からないんですが」

「多分棚の中だよぉ」

「分かりました」

 類が茶を淹れていると、珍しく店に誰かが入ってくる音がした。それに、諏訪子が対応している声も聞こえたが類は茶を淹れることに集中していた。しかし、それは諏訪子の悲鳴で破られる。

「どうしたんですか!?」

「大人しく金を出せ。じゃないとこいつを殺すぞ」

 客と思われたその男は強盗だった。諏訪子の喉元にナイフを突きつけて金を要求していた。

「生憎だけどぉ、この店には金なんてないよぉ」

「ふざけるな! いいから金を出せ!」

 諏訪子の言ってることは本当で、どうやって食い繋いでいるのか分からないくらいこの店には収入がない。今も類の支払いが終わっていないので金はないのだ。

「諏訪子さんの言ってることは本当です。これなら強盗なんかしないで万引きでもしたほうがよっぽど利口でしたね」

「くっ・・・!」

「まあ、強盗未遂ということで捕まってもらいましょうか」

「おい! 警察を呼んだらこいつを殺すぞ! そこを動くなよ!」

「呼びませんよ。今はね」

 類は懐から懐中時計を取り出し、呟いた。

「【スウィートタイム】」

「は・・・」

 次の瞬間、強盗は類に取り押さえられていた。諏訪子も強盗も何が起きていたのか全く理解できなかった。

「これは没収です」

 類はナイフを取り上げ、強盗を縛り上げた。

「諏訪子さん、警察を呼んできますので」

「あ、うん」

 類は店の外に出ると、駐在所まで走り警察を呼んだ。

「ありがとう。こいつは、人気のない店を狙って金を奪っていた連続強盗犯だ。感謝するよ」

「いえ、当然のことです」

「類くんかっこよすぎだねぇ」

「諏訪子さんまで・・・」

「お礼にぃ、これあげるよぉ」

「? これは・・・?」

「一月の第二週の間ずっとやってるパーティーの招待状。もう始まってるけどぉ、あと数日あるしねぇ、外に出る気はないからあげるよぉ。招待状一枚で三人まで有効だからねぇ」

「ありがとうございます」

「いいのいいのぉ」

 この招待状が、これから起きる事件に自分を巻き込むことを類は知らなかった。

 類は新しい懐中時計と招待状を持って吸血館へ戻っていった。

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