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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
悪魔編
26/67

失敗した計画

「悪魔祓いはルシファーにこう言った。『人を陥れし悪魔よ、神がお前を敵といった。ならば我らもお前を敵という』、ってね」

「・・・」

「ひどい話だ。自分たちの生活を豊かにしてくれた張本人にこんな言葉を吐ける、人間ってやつは悪魔よりも悪。悪魔祓いは退魔の剣とかいう武具でルシファーを斬りつけた。普通なら簡単に弾けるはずのその剣撃を、ルシファーは防ぐことは出来なかった。神が新たに創り出した悪魔撃退用の金属、銀で出来ていたからだ」

「銀が創りだされた? ちょっと待って、ギルバート王国の歴史はそこまで古かったかしら?」

「おっとお嬢様、説明が足りなかったかな。正しくは銀は元からあった。神はそれを武具にする技術を授けたんだ」

「そう、なら納得できるわ」

「ルシファーはその傷が原因で地界から出ることができなくなった。銀のせいで癒えない傷口から人間界の空気が入って侵食されてしまうからだ。さらに追い打ちとなったのは、メランコリーがその場で切り倒されてしまったことと、もう一人であるヴァニティが裏切ったことだ」

「裏切るって、それも悪魔なんでしょ? 人間に疑われなかったのかしら」

「そうではないんだ。ヴァニティはそもそも悪魔の味方なんかじゃなかった」

「?」






「ヴァニティは虚飾の悪魔。虚飾というのは簡単にいえば嘘だ。ヴァニティは神の言葉と偽って人間を好き勝手に操っていた」

「それで、ルシファーはそれに気づいたと?」

「ああ、気づいたが時既に遅し。メランコリーは消失し、ルシファーは地界に帰る以外手がなかった。そして誓った。自分を裏切ったヴァニティと人間に復讐することをな」

 マモーネの不気味な笑みに神菜子の背筋が凍った。

「しかし、今から考えてそれは約七百年前の出来事だ。今となってはルシファー本人は、後に増えた悪魔を従え、冥王であるハデスと手を組んで地獄に落とされた人間を裁く程度で満足している。しかし、ここからが本題だ。ルシファニーが誕生することによって状況は一転する」

「!」

「今から四百年ほど前、地獄に水龍【リヴァイアサン】がやってきた。リヴァイアサンは自らを【レヴィアタン】という悪魔に姿を変えてルシファーにある提案をした」

「提案?」

「レヴィアタンは、人間が新たな大罪を生んだことにより原罪魔の力が弱まったことを説明した。そして、新たな世代である大罪魔を作ることを提案した。ルシファーは残っている原罪魔を集め、【ウロボロスの大木】と呼ばれる魔界の木に自分達の血を注いだ。ウロボロスの大木は悪魔を産む木で、実の代わりに繭を実らせる。その繭が破けると、中から人間で言うと少年少女期程度の姿の悪魔が生まれる」

「・・・マモーネさんも?」

「それは後で話す。その時繭は七つ全て実ったが、生まれた悪魔の力は大木に吸収されて弱かった。それから何度か世代を交代させ、そして遂に生まれたのが、大木の力を抑えつけた純粋な悪魔ルシファニーだった。これは最近で二十数年前じゃないか。根気強く続けた結果が、あのルシファニーさ」

「そんな凄い悪魔だったのね」

「もしかして、先刻までもただ遊んでたどころか、虫の観察程度にしか思ってなかったんじゃあ・・・。人間を下等生物というのも納得できます」

「まあ、そうだろうな。で、ルシファニーはその後人間界にいけないルシファーの代わりに人間界へ行き、文明が発達したギルバート王国を見た。そして、文字通り悪魔の発想で大罪魔を生み出した」

「・・・どんな方法ですか」

「もともと強大な力を持っていた、憤怒のサタンと暴食のベルゼブブの血筋はそのままウロボロスの大木で、残りの嫉妬のレヴィアタンと怠惰のベルフェゴール、強欲のマモン、色欲のアスモデウスは大罪を犯した人間と契約して人間を悪魔にすることにした。普通なら滅ばせる相手を味方にしようなんて思わないが、道を踏み外した人間はどのみち人間には戻れない。俺だって喜んで悪魔になったさ」

「・・・」

「そして、大罪魔が全員揃ったのは本当につい最近で・・・三年くらい前かな。それから、ルシファニーがルシファーに知らせずにある計画を作った」






「それが【ギルティキングダム計画】だ。簡単な話、人間を滅ぼしてギルバート王国を悪魔の拠点とする。そして人界、果ては天界までも支配するというとんでもない計画さ」

「そんなこと、出来るはずないじゃない。だって人間以外にも、数は少なかれど私達みたいな吸血鬼や、他の種族だって居るのよ?」

「吸血鬼などは結局は悪魔と同じ魔族。生まれた場所が違うだけで仲間みたいなものさ」

「・・・」

「結局そんなこと簡単にはできないし、どうにか説得しようとした。元人間である僕だけじゃなく、サタニットちゃんも乗り気じゃなかったしね。しかし、四年前の事件でキメラが人間界へ放たれ、原罪魔サタンは冥界で裁かれることになった。ルシファニーはここぞとばかりにキメラの捕獲を進め、此処に集めた」

「それに何の理由があるの? こんな生物、どうやって利用する気?」

「最初に言った通り、エレメントキメラだとか人間をコアにしたキメラも存在する。元が人間なら操るのも楽だしね。でも此処に居るキメラは違う。人間のような高い知能は持ち合わせていないし、何より製作者が居ない。そこで、レヴィの能力で奪った人間の長所・・・知能をキメラに与えて思い通りに動かすことを考えついた」

「! それで私の学校に・・・」

「そういうこと。結果、昨日遂に実験は成功。一体のキメラが人間と同じ程度の知能を手に入れた」

「そのキメラは何処に居るの?」

「ん? 何処って、今持ってるじゃないか」

「ま・・・さか?」

『せっかく黙ってたのにネタバラシされたらたまったもんじゃないね』

「!?」

「実験成功第一号だ。名前はまだない」

「そんな・・・」

『言っておくけど、争いごとに使われるのは御免だよ。私の夢は自由に空を飛び回ること一つさ!』

「実験は成功したけど、知能を持ったことによって感情が生まれた。発想自体が間違いだったみたいだ。結局、後で持ち主に長所は戻すことになったよ。そのキメラも明日には喋れないし夢を語ることもなくなる」






「と、いうことで計画はほとんど進捗してない。ついでに言うと、ベルゼはいつも微笑んでるだけで何を考えてるのか分からないが、他の大罪魔はギルバート王国の乗っ取りに乗り気じゃない。というか、まずルシファーがそれを知ったら間違いなくルシファニーは止められる。ルシファーはもう地獄の生活に満足してるから、無駄に人間と争うことを避けたいとか言ってたしな」

「言ってた・・・って、会ったことがあるんですか?」

「しょっちゅうさ。とまあ長ったらしく話したが、結論としてはこれは本当にルシファニーの暇つぶし、ギルバート王国が乗っ取られる心配はしないで良い。さっきまで、と言うか立場上今もだが、敵である俺が言うと言い訳のように聞こえるかも知れないが、俺たちはルシファニーの遊びに付き合ってるだけ。それでお前たちに迷惑かけたことはすまないと思ってる」

「いえ、話を聞いてなんとなくは把握しました。僕はお嬢様たちが無事ならそれでいいです」

「私もよ。まあ、あの変態医者は許さないけど。でも魔力をくれたのはありがたいわね」

「・・・そろそろ時間だ。空間が崩壊すれば自動的に元居た場所に戻る。人質だった人間の女だけは、路上に戻すわけにも行かないから場所を補正する」

「マモーネさん」

「なんだ?」

「正直、完全に許したわけではありません。お嬢様や零草、リナリアさんを危険な目に合わせたのは許しがたい行為ですから。しかし、真剣に話す貴方は悪い人とは思えません。次何処かで会ったときは、敵なんて関係でないことを祈ります」

「・・・俺も思ってたところだ。また何処かで会いそうな気がするぜ。じゃあな」

 マモーネが言い切ると、周囲が白い光りに包まれて、類たちは強烈な眠気に襲われた。

 そして、閉鎖空間が消滅した。

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