学園祭
「もへはあらへ! もひょひょおごふっ」
「お嬢様、口いっぱいに食べ物詰めて喋らないで下さいよ。行儀悪いですよ」
「もご・・・んぐっ、ぷはっ! 学園祭って、美味しい祭ね」
「ふふ、食べ物だけじゃないですよ」
「お嬢様、吹奏楽の発表が体育館で行われるようですよ」
「行きましょう!」
三人の様子を、女生徒達は珍しそうに見ていた。
吸血館は街の中では有名な館であるため、そこの主がやって来たのだから話題になるのは当たり前なのだ。
「お嬢様、あまり急ぐと日傘から出てしまいますよ」
「おっと、それはまずいわね」
三人は、体育館へと向かった。それとほぼ同時刻、校庭に緑眼の女が現れた。
「あ、ミルクティー一杯ください」
「はい」
紅茶を飲み干した女は、周囲を見渡した。
「さて、任務を始めますか」
女の目が、深い緑色に光った。
体育館での吹奏楽の演奏は、まだ始まっていないにもかかわらず席がほぼ埋まっていた。
「狭いわね」
「はい」
「まあ、音さえ聞ければどうってことはないけれど」
敷き詰められた木の椅子に座り、三人は開演を待った。
「楽しみね。有名学校の学生の演奏技術」
「はい」
「お嬢様、この学校の吹奏楽部は国のコンクールで優秀賞をとっているようですよ」
「ますます楽しみだわ!」
そうこうしている内に、指揮者が壇上に現れて挨拶を始めた。
「始まりますね」
「そうね・・・」
途端、アニマの表情が変わった。とても幼女とは思えない真剣な表情で、演奏を聴く姿勢へとなった。
しばらくして、演奏が始まった。静かな曲調のクラシックから始まった演奏会は、観客を自分たちの世界へと引き込んでいった。
誰もが演奏を聞くことに夢中になっていた。学生とは思えない演奏技術に圧倒されていた。
そして、演奏会が終わった。
「次は演劇が始まるそうですが、見ますか?」
「いいわ。今度は、校舎の中を見て回りましょう。校舎の中にも出し物があるんでしょ?」
「はい」
三人は、校舎へ向かうことにした。
校舎の中で、金髪の男が生徒を圧倒していた。
彼が参加したのは、制限時間付きの早食いだ。企画者の生徒たちは、男の体型を見てほくそ笑んでいた。しかし、男は生徒の期待を裏切った。
「ご馳走様でした」
「ッ・・・!」
彼は制限時間の半分も行かぬ間に完食を果たしていた。ギャラリーの生徒も開いた口が塞がらなかった。
「完食すれば、お代はいらないんでしたよね」
「はい・・・」
男は口を拭い、去っていった。
それを、じっと見つめる一人の男が居た。
「・・・」
彼の名は【ルナド】。この学校に先月やってきたばかりの臨時教師だ。
「・・・おもしれえ」
ルナドは無精髭を撫でると、男とは別方向へと去っていった。