覚醒
医務室が一瞬にして凍りついた。アスモはその様子を笑いながら見ていた。
「は・・・ははは! 成功だ! 僕の薬は人間にも使えるんだ!」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「さて、実験に協力してくれて有難う。だが、ゲームの敗者である君は此処でリタイア、残念だったね」
アスモが話した瞬間、アスモの頬に細い氷の刃が掠った。
「・・・は?」
「ここで・・・リタイアなんかできない」
「ば、馬鹿な・・・! 能力の制御が出来てる!?」
「貴方を倒して此処を進む」
「ルール違反すれば、人質がどうなっても知らないぞ!」
「ならどうにかなる前に助けに行く」
既に神菜子は通常の思考ができなくなっていた。しかし、ただ一点【アニマとリナリアを助けたい】という感情だけが働いていた。
「言っても無駄か・・・仕方ない」
「・・・消えろ」
「はあ、君を実験台にしたのは失敗だったようだ。・・・勝てる気がしないよ」
次の瞬間、アスモは巨大な氷塊に跳ね飛ばされ、医務室の壁を壊して地面に叩きつけられた。
「痛ッ・・・!」
アスモは医務室の外の廊下に投げ出されていた。廊下の奥には、上へ登る階段があった。
「ありがとう、これでお嬢様の為に、類の為に戦える」
「待っ・・・くっ」
アスモはその場で気絶した。
「さて・・・早く最上階に行かないと、お嬢様が・・・」
神菜子は階段を駆け上がっていった。
その頃、医務室の壁に凍りついた蝿がいた。次の瞬間、蝿は黒い塵となって消えた。
ベルゼの襲撃を、アニマはさらりと躱した。
「不本意だけど、私も我が身が大事なんでね」
アニマは手を横に広げた。
「永遠に忘れられぬ不協和音を味わうがいいわ。【ナイトメアディソナンス・ソロ】!」
アニマの足元からいくつもの影がベルゼに向かって突き進んでいった。影は先端が尖り、槍のようになっていた。
「貫け!」
「・・・甘いですね」
槍のような影をベルゼは掴んだ。
「捕食」
影が、ベルゼの掌に吸い込まれるように消えていった。
「な・・・!?」
「捕食完了。ごちそうさまでした」
「全く、悪魔は訳のわからない能力過ぎて困るわ・・・」
「次は、貴女を捕食しましょうか?」
「出来るものならね!」
「・・・というのは冗談で、今貴女に付き合ってる暇はありません。緊急事態が連続しているので、さようなら」
「は? 逃げるの?」
アニマの言葉を無視して、ベルゼは黒い霧に包まれて消えた。
「・・・大丈夫? リナリア」
「あ、いえ、こ、腰が抜けちゃって・・・」
「しょうがないわね」
アニマは髪の毛を掻くと、その場に座った。
「貴方だけ此処においていけないわ。治るまで待つわ」
「あ、ありがとうございます」
アニマは頬杖をついて祈った。
(嫌な予感がするわ・・・この館、いやこの空間が既に嫌な空気にみちている。類、神菜子、無事でいてよね・・・)
しかし、その祈りが届くことはなかった。