脱出
「あーもう! こんな状態じゃろくに寝れやしない!」
苛々したようにアニマは起き上がった。ベルゼが消えてからずっと、寝ては飛び起きてを繰り返していた。
「あー、苛々する! 貴女にとっては良いかも知れないけど、明るい部屋でじっとするのは苦手なのよ!」
「いえ、私も明るい部屋はどうも苦手で・・・」
「・・・それはそれで、学生としてどうかと思うわよ」
その時、再び足音が近づいてきた。しかし、鉄格子に見えたのは予想外の人物だった。
「せ、先生・・・?」
「よぉ、リナリア。無断欠席とはいい度胸じゃねえか」
「ち、違っ・・・」
「冗談だよ」
ルナドは葉巻を咥えて火を点けた。
「宝の匂いがしたと思ったが、こんな悪趣味な宝とはな」
ルナドは部屋の壁を眺めながら呟いた。
「貴方、悪魔ではなさそうね」
「悪魔? まあ、悪魔と呼ばれたことはある」
「てことは、やっぱり悪魔じゃないのね」
「まあな。取り敢えず、仮にも教え子と、ついでだ。この鉄格子は開ける」
「ついでのついでにこの手錠も外してもらえると嬉しいんだけどね」
「阿呆言うな、小娘」
「こ、小娘ぇ?」
「宝に興味は無くなったし、鍵開けたらさっさと帰るとするぜ」
そう言ってルナドは鉄格子を一蹴りした。メキメキと音をたてて鉄格子が壊れた。
「せ、先生も人間じゃない・・・?」
「ん? 人間といえば人間だぜ。半分だけな」
「半分?」
「これ以上は知らないほうがいいぜ」
ルナドはその場から去っていった。
「さて、私達も行きましょうか」
「は、はい」
鉄格子の外はただの廊下で、向かって右側に上へと向かう階段があった。
「ほかに階段はなさそうだし、此処は地下って感じね」
「そうですね」
長い螺旋階段になっていたその階段を上り切ると、そこにはエントランスが広がっていた。類達が登っていった階段の裏側に、その螺旋階段はあった。
「どういうことかしら、透明な壁で遮られて向こう側に行けないわ」
二人は、類の居た側に出てきていた。そこからでは神菜子のいる方向へは出れない。
「アニマさん、あ、あれ・・・」
「ん?」
館の入り口にあった透明な扉が割れていた。おそらくルナドが入ってくるときにできたものだ。だが、奇妙なのはそこではなかった。割れている部分が徐々に修復され、塞がろうとしていたのだ。
「い、急ぎましょう!」
「・・・いえ、私は残るわよ」
「え!?」
「この館には類と神菜子が来ている。だから、主である私だけが逃げ出すなんてできないわ」
「その通り、いいこと言うじゃねえか小娘」
「!?」
いつの間にか、アニマの背後にルナドが立っていた。
「その度胸に敬意を評して、いいものをやるぜ」
ルナドは、真っ赤な手錠の鍵でアニマの手錠を外した。
「ひひっ、俺もさっさと帰ろうかと思ったんだがな、俺の感じ取ったお宝はあんな悪趣味なもんじゃなかった。もっといいものが、上にある! てことだ、俺も此処に残ることにした!」
「あら、そう」
「まあ、悪魔とやらと一緒にお前さんのところの使用人も倒しちまうかも知れないけどな」
「なんですって?」
アニマの表情が変わり、ルナドを鋭く睨んだ。
「おお、怖い。大丈夫、手加減はするさ」
「私が怒ったのはそこじゃないわ。貴方なんかに、類はやられないわ」
(神菜子さんは・・・?)
「そうかい、じゃあ心配ねえな。俺は行かせてもらうぜ!」
ルナドは翼を広げて飛びあがった。
「あばよ」
そのままルナドは去っていった。
「さて、貴方の手錠も外してあげるわ」
アニマはリナリアの手錠を掴むと、握りつぶした。
「あ、ありがとうございます・・・」
「いいわよ。で、貴方は残るの? 出るの?」
「いえ、もう閉じちゃったので」
「・・・そう」
その時、上の階からベルゼが飛び降りてきた。
「あなた達・・・何故出てこれたのですか?」
「ちっ、邪魔が入ったか・・・」
「人質でなくなったなら侵入者と同じです。捕食します」
ベルゼの手のひらに、獣のような口が現れた。
「ひっ・・・!」
「ゲームは中止ですね。仕方がありません」
ベルゼがアニマに飛びかかった。