時止
館の中は見た目ほど広くは感じず、奥まで見渡せる。エントランスはシャンデリアが天井を覆っていた。
「この館の何処かに、あと六人も悪魔がいるのか・・・」
「そうね」
類はここで、あることを思いついた。が、すぐに否定した。それは、人探しやモノ探しには最適な手段ではあるが、この状況では一番危険な行動・・・手分けである。
この状況で手分けをすれば、類はともかくとして、戦闘系のルールなら神菜子は確実にやられる。
「零草、なるべく早く最上階へ向かおう」
「うん」
二人が踏み出した、その瞬間だった。
「おいおい、それじゃゲームにならねえじゃねえか」
「!?」
上から声が聞こえた。類が上を見上げると、シャンデリアの上に人が立っているのが見えた。
「早速だが、俺とゲームをしようか」
「ということは、貴方も悪魔ですか」
「そういうことだ!」
男が飛び降り、綺麗に着地した。男の顔には、左眉から左頬にかけて傷跡があった。
「俺の名前は【マモーネ・グリードリ】。強欲の大罪魔だ」
「嫉妬に暴食、それに強欲ですか・・・」
「それって・・・」
「お、気づいたか?」
「・・・七つの大罪?」
「御名答」
七つの大罪、それは人間の忌むべき七つの感情のことである。類と神菜子はそのことを知っていた。
「俺達大罪魔は、七つの大罪を司る悪魔だ」
「そうですか」
「さて、そんなことはどうでもいい。ゲームを始めようじゃねえか」
「ルールは?」
「それは今から説明する。俺は訳あって戦闘できないんだ。だから、簡単な賭けをしようか」
「賭け?」
マモーネは何処からか二本のレイピアを取り出した。
「俺はさっき、自分のことを強欲の大罪魔だと言った。そして、ベルゼからの情報だとお前も吸血鬼だそうじゃないか」
「はい、そうです」
「なら、このゲームが成立する。このレイピアの内一本は銀だ。吸血鬼も悪魔も銀に触れれば少なくとも火傷するだろ? だから、銀のレイピアを引いたほうが負けだ。お前たちが負ければ、俺の能力でお前たちをこの空間から追い出す。もしお前たちが勝てば、一つだけ質問に答えよう」
魔族には共通の弱点がいくつかある。銀はその内の一つで、触れると火傷、最悪壊死する。
「さあ、選べ。選んだら、そのレイピアを自分の腕に当てろ」
「分かった」
「ちょ、ちょっと類? 間違ったら・・・」
類は微笑みながら神菜子を見たあと、マモーネに向き直った。
「どっちでも、選ぶだけ無駄です。そちらをもらいましょう」
「・・・いいだろう」
類はレイピアを受け取り、腕に近づけた。マモーネも同じように構える。
「いきましょうか」
「ああ」
二人が同時にレイピアを腕につけた。が、お互いに何の異変も起きなかった。
「・・・なぜだ? なぜお前は無事なん・・・」
「おっと、口を滑らしましたね。詐欺師さん」
「・・・!」
「どういうこと・・・?」
「どんな能力かはさておき、インチキをしてくることは眼に見えていました。なので、先にこちらから仕掛けさせてもらいました」
「え? でも、そんな仕草・・・」
「ええ、一瞬だけ」
「?」
類はレイピアを投げ捨てると、懐から懐中時計を取り出した。
「口を滑らしてくれたおかげで、インチキがバレましたね?」
「くっ・・・」
「さあ、僕の質問に答えてもらいましょう。しかし、先に僕もネタバラシしておきましょう。零草にも言ってない秘密をね」
「なんだと?」
「え?」
「僕の、お嬢様とクロロから授かった能力・・・【時止】のことを」