嫉妬の悪魔
「おっと、言い忘れていました」
「?」
レヴィは、手のひらを類に向けて話しだした。
「この館には、あたいを含めて七人の悪魔が居ます。その七人の悪魔は自分の持ち場から離れずに貴方がたを待っています。このゲームでは、ルールに含まれない暴力行為は原則禁止となっていますのでご了承下さい」
「なら、どうやって鍵を奪うのですか?」
「言ったでしょう、これはゲームです。其々の悪魔が自分たちで個別にゲームを用意しています。貴方がたはそのゲームに勝てばいいのです。鍵を持ってるのは一人だけですので、鍵を持っていない悪魔に勝った場合にはそのまま通りすぎて下さい」
「・・・ですが、暴力行為の禁止とは言ってもそのルールを僕達が守る保証もないでしょうに」
「それもご心配なく、貴方がたはいつでも監視されています。このゲームに目的は一つ、我が主の暇つぶしです」
「・・・なんですって?」
「ですから、貴方がたは我が主の暇つぶしのためにゲームに参加することを強いられているのですよ」
「そのために、お嬢様とリナリアさんを?」
「はい」
レヴィはにこやかに答えた。
「それでは、先刻までの説明を覆すようになってしまいますが、あたいとのゲームのルールは一つ。武器を使わずにあたいをねじ伏せることが出来れば貴方がたはこの門を通り館に入れます」
「素手・・・?」
「はい。ちなみに、二人がかりでもいいですよ」
「・・・零草」
「うん」
「行きますよ」
「了解!」
二人はレヴィに向かって走っていった。
「ふわぁああああ・・・」
アニマは大あくびをしていた。
「やっぱ日中は駄目ね。眠くてしょうがないわ」
「この状況で、よく寝れますね」
「ん? まあ、緊張感がないのは自覚してるわ」
「・・・本当に私達助かるんでしょうか」
「なによ、此処で死ぬとでも?」
「・・・」
「もう、さっきも言ったじゃないのよ」
「そうですけど・・・」
「そんなこと私にも分からないわよ。正直、今なら私のことを貴女でも殺せるわよ」
「え?」
「どうやったのかは知らないけど、私は今吸血鬼の力を失ってる。きっと不死でもないんじゃないかしら」
「それって、危険なんじゃないですか?」
「危険よ。とっても」
「・・・」
「大丈夫よ。二人を信じましょう。きっと、あの二人はすぐ近くにいるわよ」
アニマは、横になって寝始めた。
「ぐあっ!」
「きゃあ!」
「ふふふ、もう終わりですか? まだ十分も経ってませんよ」
類は吸血館に来た当時から、前執事からの基本的な教育に加えて簡単な体力づくりや戦闘訓練もしていた。だが、その程度では敵う相手ではなかった。
「強い・・・」
「悪魔を含む魔族には、それぞれ個人に特殊な能力が備わっています。あたいの能力は、他人の長所を盗む能力【ジェラシーアイ】です。長所の中には、瞬発力や腕力なんかもありましたよ」
「それで・・・か」
「さて、とどめです。意外とあっけなかったですね、吸血鬼も」
「類・・・!」
レヴィは二人を見比べて微笑んだ。
「ああ、妬ましいなあ。幸せそうで、憎たらしくて、羨ましい」
「?」
「さて、こういう時は幸せを壊すに限りますよね」
レヴィは神菜子に向かって腕を振り上げた。
「死んでください」
「いやっ・・・」
「零草!」
起き上がった類の懐から、古い懐中時計が転がった。