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吸血執事と懐中時計  作者: 王星遥
悪魔編
10/67

事件

 現在午前八時。吸血館の使用人の大半はたった今が就寝時間だ。

 類も例外ではなく、前日の疲れが取れずに着替えたと同時にベッドへ倒れこんだ。

「・・・」

 類と神菜子の部屋はそれぞれ、他の使用人と違って狭いが個室だ。それゆえに、誰も気付かなかった。二階にあるはずの類の部屋を窓から覗くベルゼの姿に。






「ふわぁああああ・・・」

 大きなあくびをして、神菜子はベッドに腰掛けた。神菜子は、どうしても読みかけの小説が読みきりたかった。

 文学少女である神菜子は、長編の小説を好んで読む。そのため、ほんの少しのページを残して眠りにつくのは気になって仕方が無いのだ。

「あと少し・・・あと少しだけ」

 しかし、眠気には勝てなかった。神菜子は分厚い文庫本を膝においたままベッドに倒れた。

「・・・」

 そして、神菜子の部屋の外にも見慣れない男が立っていた。

「さてと、お仕事しますか」

 男は上唇を舐めた。






「・・・」

 アニマは既に寝室で熟睡していた。吸血館の使用人の生活リズムは、夜行性であるアニマに合わせたものだ。普通の使用人はアニマのことを、昼夜逆転の生活をしているただのお嬢様と思っている。

「すぴー・・・くかー・・・」

 寝顔だけ見ていると、吸血鬼だとか半世紀以上生きているなど到底思えないが、正真正銘アニマは吸血鬼だ。

 吸血鬼であるアニマの部屋には窓がない。純血の悪魔は直射日光に当たると灰になってしまうのだ。

「すぴー・・・」

「・・・」

 アニマのベッドのすぐ横に、膝ほどまである綺麗な白い髪をなびかせる女が立っていた。

「くすくす、これも計画のため。大人しくしていて頂戴ね」

 女は、手に持った小さな装置を四つベッドの周りに置いた。

「じゃあ、ご招待♪」

 女は、手に持ったスイッチを押した。

 吸血館の三つの部屋で、同時に青い光が広がった。






「う・・・あれ?」

 寝心地の悪さにアニマが目を覚ますと、アニマは石の床の上に寝ていた。

「ん? ん??」

 さらに、後ろ手に手錠をかけられていた。

「ちょ・・・どゆことー!? えぇええええ!?」

「痛っ!」

「?」

 状況が把握できていないアニマが暴れまわると、誰かの頭に手があたった。部屋は暗かったが、吸血鬼であるアニマには寧ろ好都合だった。

「貴女は・・・リナリア!?」

「その声は・・・アニマさんですか?」

 アニマと同じように、リナリアも後ろ手に手錠をかけられていた。

「あれ・・・? 此処は何処ですか? なんで私手錠付いてるんですか?」

「落ち着きなさい。私も今気が付いたところよ」

「もしかして・・・私誘拐されたんでしょうか」

「知らないわよ。まあ、良い状況じゃないのは確かね」

 アニマは部屋を見渡した。そこは、部屋というには粗末すぎる。部屋と言うよりは、寧ろ牢というのが丁度良い。

「地下牢か何かかしらね」

「牢・・・?」

 リナリアの顔が青ざめた。

「大丈夫よ。吸血鬼の私ならこの程度・・・あれ?」

 精一杯力んだアニマだったが、手錠はびくともしなかった。

「そんな・・・吸血鬼の力が無くなってる・・・」

「え? それって、どういうことですか?」

「今の私、多分人間の幼女程度の腕力しか無い」

「え・・・」

 アニマの顔も、みるみるうちに青ざめた。






「類・・・類!」

「うん?」

 揺さぶられた類は、あくびをしながら起き上がった。

「零草・・・?」

「ちょっと、なんか知らないけどなんか・・・うわぁん」

「落ち着いて。何が・・・あ?」

 類は、自分が道端に寝ていたのに気づいた。冷たい地面の感触がよく伝わる。

「気がついたら此処にいて・・・寝る前に呼んでた本もあるし、夢じゃないと思うの」

「確かに、夢にしては感覚がはっきりしてる」

 地面を撫でて、類はつぶやいた。

「此処は何処でしょう・・・レトサムの街ではなさそうですが」

「それどころじゃないって! 空!」

「?」

 類が空を見上げると、そこには星一つ無い灰色の空があった。

「な・・・!?」

「此処、本当に国内? それどころか・・・此処、私たちの住んでる世界なの?」

 その時、何処からか轟音が鳴り響いた。

「な、なんだ・・・?」

「る、類! アレ!」

 神菜子の指差す先には、地面からせり上がる洋館があった。

「行ってみよう! 類!」

「行ってみましょう」

 二人は、洋館に向かって走っていった。

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