吸血館
ギルバート王国の南に位置する街【レトサム】にある館、吸血館で【八草類(やくさ るい】は紅茶を楽しんでいた。
現在時刻は午後三時、ちょうどおやつ時だ。
「はぁ・・・今日のダージリンはまた一段と香りが良い」
吸血館には使用人が男女ともに三十人ほど居る。その中でも、執事は男性使用人、メイド長は女性使用人を統括する重要な役職だ。類は執事であり、十八歳という若さにして使用人を統べている。容姿端麗で礼儀正しいためか、女性使用人に人気があるのだが本人は気付いていない。
おやつ時は吸血館の使用人の休憩時間でもある。類は、休憩時間を自室で過ごすことが大概で、今もこうして自室でティータイムだ。
「類!」
静かに紅茶を飲んでいた類の部屋に、突然侵入してきた人物が居た。
「入る時くらいノックして下さい」
「あ、ごめん」
彼女の名は【零草神菜子】。吸血館のメイド長で、類と同い年だ。
「で、何の用ですか?」
「そうそう、これなんだけど」
神菜子は一通の手紙を類に見せた。
「近所にある【国立ハロベルト高等学校】の学園祭の招待状なの。招待状がないと、入れないらしいのよ」
「で、なんで君が持ってるんですか?」
「お嬢様が『今日行きましょー』って」
類は紅茶を吹き出しそうになったのを耐え、聞き返した。
「お、お嬢様が?」
「うん。四時から行くから準備しろって」
「え、僕もですか?」
「うん。お嬢様の付き添い」
「まあ、お嬢様の決定なら行くしかないでしょう」
「じゃあ、四時にロビーに集合ね」
「はい」
神菜子が部屋から出たあと、類は紅茶を飲み干して自分の机の引き出しを開いた。
引出しの中には、隠すように銀ナイフとダガーナイフが仕舞ってあった。
「・・・」
類は、ナイフを手に取ると懐に仕舞い、モノクルをかけ直した。
「ふふ、言っておくけどお祭りっていうのに興味があるだけよ。遊びに行くわけじゃないからね」
「はいはい」
類の持つ日傘の影に入りそわそわしながら歩く吸血館の主【アニマ・シェイドル】は、満面の笑みを浮かべて小さな体を揺らしていた。
「お嬢様、そろそろ着きますよ」
「本当?」
「はい」
神菜子の言った通り、学校にはすぐに着いた。
「思ったより、大きな学校ですね」
「それはそうよ。この国で一番大きな女子校だから」
「・・・女子校?」
類は踏み出そうとした足を止めた。
「女子校って、聞いてないんですが」
「え? 言ってなかったっけ」
「聞いてませんよ」
類が周りを見渡すと、殆どの客が女性なのに気付いた。
「・・・入る前から心が折れそうなんですが」
「何言ってるのよ! 楽しそうじゃないの!」
「お嬢様・・・」
「ほら、お嬢様の決定なら行くしか無いんでしょ?」
「うっ・・・」
類は、渋々学校の門をくぐった。
「招待券はお持ちでしょうか?」
「はい。ちょうど三枚よ」
「はい。どうぞお通り下さい」
受付を通り、三人は催し物を見るために校庭へ向かった。
「まずは、食べ物を制覇ね!」
「食べ過ぎないで下さいよ」
アニマは、真っ先に食べ物の出店に向かった。
類達と同じく、ハロベルト高等学校の校舎にいた謎の男女二人組が話していた。男は金髪碧眼、女は緑髪緑眼で左目が髪で覆われていた。
「あまりはしゃがないでくださいよ。これも、任務のうちですので」
「分かってます。あたいだって子供じゃないんですから、命令くらい守れますよ」
「本当かどうか・・・まあ、信じましょう」
「では」
緑眼の女は、颯爽と校庭へ走り去っていった。
「うまくやってくださいよ・・・」
金髪の男は、不敵に微笑んだ。