1回目
「やだりっちゃん、もう、寝癖!」
開口一番、センちゃんはおはようも言わないで、私のおかっぱ髪を撫でつける。
よく、センちゃんは私の真っ黒な髪を撫でたり、鼻を近付けてすんすんするけど、
私はセンちゃんの、紅茶みたいな深い色の髪、綺麗だと思う。
朝、駅のホーム、電車を待つ列の中に、私とセンちゃんは何時も並んで待ってる。
はぁ、息が白く漂って、冷え冷えした空気に溶ける。
青いブレザーに黒いコートを羽織って、黒い革鞄をぎゅっと握る。
タイツ一枚じゃとても寒い。革靴の中の足指が縮こまる。
「ねぇ、聞いてる?んもぅ、」
センちゃんが私を覗き込んだ。背が大きいものだから、腰を曲げて横から。
「……寒い、ね、」
喋った途端に、がくがく震えそう。
やぁだ、そんな寒い?センちゃんは私を見ながら、きゅって笑った。
髪よりもう少し透けるような、紅茶色の瞳が、朝なのに昼間みたいにきらきらした。
「センちゃんはズボンじゃん、」
「そうだけど、りっちゃん寒がりでしょ?」
それにねぼすけ。と言って、センちゃんはぅふふ、って笑う。
手が伸びてきて、私の首元のリボンをまっすぐに直した。
センちゃんは朝早くてもいつもばっちりで、隙が無い。
ネクタイはちゃんとしてる。曲がってもいないし、キュッと締めてある。
ズボンを腰パンしたりもしない。脚が長いから似合わない。それにセンちゃんの趣味じゃない。
色白で、大きい瞳がきらきらして、すぅっと鼻筋が通って、口角の上がった唇はいつも紅い。
顔立ちは……間違いなく学園で一番、だと私は思うけど、学園祭だといつも2位か3位。
もうそれはひとえに、センちゃんのキャラクターのせいだと思うんだけど。
「りっちゃん、ぼーっとしないで!電車来ちゃうわよ!」
センちゃんはたまらず私の手をぎゅっと掴んだ。電車がホームに滑るように入ってくる。
電車、乗らなくちゃ。けど眠くて仕方無いし、身体が起きて無い。
「行くわよ、鞄ちゃんと持ってる?」
お母さんみたい。
高校2年の超絶美形男子高校生なのに。
「あたしばっか見てる。」
私を電車に引っ張りながら、センちゃんはまた笑った。
もったいない。本当にもったいない。おねぇなとこ。
けど、私の一番の友達。親友のセンちゃん。
名前は、大場 千尋。
一回目が終わりました。割と前から考えていた設定なので、考えるのが楽しいです。