親友の行動が今までにない程早すぎて。
はじめは第一王子アルヴィンの親友であり騎士団長のレナード君視点。
カレンさん視点は少ないです。
今日も今日とて日は巡る。
たとえどんな嫌なことが起こっても、たとえ、王宮で異彩を放ち君臨していた蒼の君がいなくなったとしても、たとえ俺の親友が今までに見ないほど、落ち込んでいたとしてもだ。
俺はエリシア王国王宮付騎士団で、団長兼第一王子のお付をしている――6つのときから。初めはアルヴィンの話し相手か学友、いつのまにか王子を取り巻きやらなにやらから守る護衛、そして王立学院を卒業した15歳ではもう「将来は騎士団勤務」は至極当然といった感じだった。
まあ世間様から見れば「勝ち組」だったのかもしれないな。
俺は「面倒なヤツの世話を押し付けられた」としか思えなかったけど。
「レナード」
「は、何か御用でしょうか」
しみじみと思いふけっていると、不意に宰相殿に声をかけられた。
「これを、アルヴィン殿下に渡してください」
そう言った宰相殿の声には僅かに疲労が滲んでいたので、少し驚く。宰相殿は滅多なことでは感情を出さない、王宮内でも「鉄面皮」と呼ばれるほどのお方なのだ。
数枚の羊皮紙を俺に手渡し、宰相殿はいつも通りの美しい姿勢で去って行った。
少し不思議に思うところもあるが、ともあれ宰相殿に手渡された資料をアルヴィンに渡さねば。
コンコン、とノックをすれば、返ってくるのはただただ重い沈黙。俺はいまだ機嫌の直らない親友に溜息をつきながら、扉を開けた。
「殿下、届け物です」
一応騎士らしく声をかけるが、当の本人は思ったとおり、腕を組みうつむいたまま動かない。面倒くさいなあと思いながら、周りの人払いをして、重い扉を閉じた。
周りの目がなくなったのをいいことに、俺は遠慮なくアルヴィンの前に座る。普通の騎士ならば絶対に許されないような、乱雑な座り方をしたにも関わらず、王子殿下は全く気にしてないようだ。いや、そもそも俺のことなど視界にも入れていないのだろう。
俺は溜息をつきながら、資料をテーブルに叩きつけるように置いた。
「アルヴィン」
「……」
「蒼の君――カレン様の居場所分かったってよ」
「…っ!」
カレン様の名前が出た瞬間、アルヴィンは弾いたように顔を上げる。急いた様子で資料に手を伸ばした。資料をつぶす勢いで見入る。
――この様子からも分かるように、アルヴィンはカレン様を愛しく思っている。傍から見れば毛嫌いしているようだが、それはアルヴィン自身が『魔女』と言われるカレン様を好いている自分を否定していたからだ。それ故に、本音とは裏腹に蔑んだように毛嫌いするのだが、それがまたカレン様に厭われる要因になっているという悪循環。まったく、見ていて気が気でないこちらの身にもなってほしいものだ。
カレン様は元勇者であり、歴代勇者の中でもかなりの異彩を放つ御方。召喚当時は15歳(初めて拝見したときは12くらいの子供かと思ったが)だったのにも関わらず、異世界の王にも怖気ることなく、天晴れなくらいに拒絶してくれたのだ。あのぽかんとした陛下の顔は、今も忘れられない。
そして一番の異常とはその魔力の膨大さである。
この世界を束にして同等、そのへんの魔導師など詐欺師に見えるくらいに凄いのだ。彼女はそれを有効に使い、召喚された部屋を自身のものとし、強固な結界を張り、徐々に王宮を自分の手中に収めていった。『脅迫』という魔法も素晴らしく有効に使って。
今回の事件、アルヴィンに言っては殺されかねないとは思うが、俺は良かったと思っている。
さすがにこんなこともあればアルヴィンも自分の気持ちを受け入れるはず。
そう思うのだ。
うん。
…うん?
「…アルヴィン…気が早すぎじゃないか?」
目の前の人物はいつの間にか、こつぜんと消えていた。
*
私はこの四年、決して無駄に王宮をいじめていたわけじゃない。
密かに自立のときを狙って、そしていつか絶対に王宮から出るために、自分の家を作っておいたのだ。王都からずーっと離れた、田舎情緒溢れるこの場所、マグメル村に!
とはいっても本当にここに来たのは初めて。いつもは地図を引っ張り出して、でもって水鏡を通して工事。地道な作業だったけど、ログハウスの玩具を作ってる間隔でやったからおもしろかった。家具は魔法で調達したしね。自慢の一品てやつ。
ルカは疲れていたのか、すぐに暖炉の近くで眠りについた。ふふ、私の選んだ最高級カウチ(っぽい)ソファが気に入ったか。柔らかいか、気持ちいいか、私も寝たいわ君を抱き枕にして!
でも、その前に防犯の魔法をかけなきゃねー。魔物はこの世界にないけど、熊や盗人や賊ならいるし。
「ん?」
結界になんか引っかかった。
ヒトかしら、熊かしら…熊だったら食料ゲットだぜ! なんだけどな。
そう思っていると、ドアが躊躇いがちにノックされた。