とあるクレーム対応
彼岸と此岸の狭間、転生を司る神々のしもべたちが迷い込む一軒の店がある。
CAFÉ Blessyou。そこではボルゾイみたいなマスターが来店客の悩みをきいている。
さて、本日の迷い子は―――――。
「もうやだぁ・・・。」
本日も(・)アタシはブレッシュに来ている。
ここのマスターと甘味がないと乗り切れそうにない。
アタシの仕事は召喚系のアフターサービス、ぶっちゃけクレーム対応がメインだ。
今も召喚ミス案件で困っている。まぁ、だからこそ、この店にたどり着けるんだけど。
今日は常連のスイーツゴリラもいないし、マスターを独り占め!
「ねぇねぇマスター!ちょっと聞いてよぉ!」
精緻な蝶のあめ細工を作っていたマスターは、顔を上げてふっと笑ってくれた。
「えぇ、お伺いします。このカフェはそういう場ですから。」
作業の手を止めないが、聞いてはくれそうだ。
アタシは悩みの種を語ることにした。
――――ここ最近、召喚系の転生・転移がらみのクレームがまた増えているのよ!
前に相談した、「とりあえず大量に召喚しちゃう問題」はよくある教室とかの場所の指定から個人指定にしたことで解決してる。
「おまけ付きのせいで本来の勇者間違えちゃった問題」も、識別魔術を普及させてトラブルが格段に減ったの。
でも今回の問題は質が違うというか…召喚された側のクレームじゃなくて、召喚をした側から泣きつかれちゃったの。
改良された召喚の陣でも、間違って半径1メートル以内にいる人は一緒に喚んでしまう。
識別で勇者じゃないと判定された人のうちにトラブルメーカーがいてね。
そんなヤツ、適当に扱っとけばいいのに、昔の取り違え問題の名残で手厚く保護が決まってて。召喚した負い目から強く出られないのもあって、暴走は止めらんなくて。
贅沢が過ぎて国を傾けたり、地元民のタンスや壺を漁って強盗したり、お世話担当にセクハラしたり、もうめちゃくちゃよぉ!
世界を正常に回すために、異世界の協力を神に請うたのに、結局不幸になるなんで本末転倒じゃないか!助けてください!的なクレームが殺到しちゃってるのよぅ。
そいつらをもとの世界に返すには本人の意思というか、手続きが必要だし、ちやほやされたいから帰らないって駄々こねるし、本気でヤダ~!!―――
「マスタぁー、なぐさめてぇ~。」
「それはそれは・・・。この手の問題はなくならないですね、困ったものです。とりあえず、この『バタフライ・インパクト・パンケーキ』でも食べて元気出してください。」
そう言ってマスターが出したのは、たくさんの蝶が飾られた花形のパンケーキ。先ほどのあめ細工はこのために作っていたようだ。
「花の形がラフレシアっていうのが、うん、マスターらしいわ・・・。いただきます!あっ、この紅茶美味しかったわ!お代わり頂戴!」
「はい、かしこまりました。・・・さて、今回のご相談に関しては以前に似たような事例がありました。要はご当人納得の上、お帰り頂ければいいのですね?…この方法なら、本部からも許可が下りるはずですよ。」
そう言って、紅茶のおかわりと申請の書類を何処からか出しながら、作戦を教えてくれた。
ちょっとマスター、珍しく悪い顔してなぁい?…そんなところもカッコよくて憧れるぅ~!
◇◆◇◆とあるおまけ転移者の話
俺はこんなところで腐ってていい人間じゃない。
そんな日頃のイライラを、いつものように地味女な部下にぶつけていたら急に足元が眩しく光った。
目を開けると、知らない場所にいるわ知らない人に囲まれてるわでパニクった。
その間に地味女はどこかへ連れていかれていた。
俺もなんか豪勢な客室に通され、お茶を出されて、話を聞くことになった。
お偉いさん曰く、聖女の召喚をしたところ俺は巻き込まれたらしく、帰る目途がつくまではこの部屋で保護されるのだそうだ。あいつが聖女!?この世界の基準ありえねー。
外に出るのは危険だが、それ以外は自由にしていい、要望があればかなえると言われた。
文明水準が低いとはいえ、うまい飯、うまい酒は望めばどんどん持ってきたし、高級娼婦も連日呼べた。何でも願いが叶うのがなんか面白くなってきて、空調代わりに魔術師をよんだり、魔境にある極上の果物を取ってくるよう騎士団に要求したり、今年不作の地域でしか作れない国王への献上酒を持ってくるよう強要したりした。
国の一大事が近づいているこの時分に、民の負担になるようなことはできないとお偉いさん方に言われたが、そんなの知ったことか。
しかし、途中からあてがわれた御用聞きの奴は無愛想だし、スマホもないし、ゲームの類はオセロくらいしかないから、だんだんイライラしてきた。
ある日、お茶の時間で入ってきたメイドが好みのタイプだったもんだから、嫁になれ!と襲い掛かった。御用聞きの下僕のせいで未遂に終わったが、その晩には、神官が来ることになった。
なんだ?こっちは巻き込まれた被害者様だぞ!偉そうに説教でもする気か。
と思いきや、神官がしたのはとあるダンジョンへの招待の話だった。
「ダンジョンの詳細は、戻るものがいないためわからないのですが、伝承では今より上位世界に行ける、とありまして。研究者の間では、この世のすべての遊興があるとか、屋敷を荒らす者共を一掃する竜巻を発生させる魔道具があるとか、健康を害されないシステムがあるとか言われる、とにかく夢のような世界なのだそうです。この度封印が解かれたので、あなた様にぜひおすすめしたく。」
「ダンジョンってあれだろ?なんかトラップとか魔物がいたりするんじゃないのか?危険なのはちょっと…。」
「いえいえ!この『神野造里ダンジョン』はもともと聖女の息抜き用に作られたとも言われておりまして。今修業期間の聖女様にも挑戦権があるんです。もしあなた様が拒否されるのであれば、聖女様に…」
「いやっ、そういうことならおれが挑もう!」
という訳で、『神野造里ダンジョン』にやってきた俺。
内部はただの迷路のようなもので少々がっかりした。
途中に謎解きのような、街頭アンケートのようなものを解きながら、ゴールへ向かってどんどん進む。
歩き疲れて時間がわからなくなった頃、出口の表記を見つけた。PLEASE OPEN!と書かれた扉の先にあったのは…
◇◆◇◆
「なるほどな、扉を開けると体よくソイツラが元居た世界に戻せるって訳か。部屋を荒らすものを竜巻で…ってダ〇ソンか!確かにこの文明から見たら夢の魔道具だわな。謎解き風で本人手続きを終わらせるとか、相変わらずマスターはくえねえやつだな。」
「ちょっと!スイーツゴリラはだまってなさいよっ!いやー!マスターほんっとにありがとう!!転生先トラブルががっつり減ったわ!」
「人間誰しも煽てられ続けると、自分は特別だと驕るものです。相手を貶めたり、見下す人間なら尚更です。そこへ自分が優先されると言われるならだれにも譲らない。そして、体力が減って判断が鈍っている頃に『開けて』って書いてあれば、戻ろうなんて思えない…ふふっ。」
「怖いねぇマスター!でもそこにしびれるあこがれるぅ!!」
「しかもこの仕組み、自分の世界に戻るのは召喚から1週間後とか!無断欠勤で会社はクビになるけど失踪扱いにならん絶妙の塩梅!部下のせいにしようとしても、召喚中の記憶抹消作用で、存在しない人間に呪詛吐いてる奇人になるしかないとか…。やっぱマスターは絶対に敵に回せないな。くわばらくわばら」
因果応報を書いてみたかったのだけど、ブラックジョークみたくなりました。
次回、娘が父のピンチを救うと見せかけて、な話。




