日曜日の朝食はフレンチトースト
目が覚め、すぐに起き上がってベランダへ出る。鼻の奥が凍りそうになるくらい冷たい空気を吸い、口から一気に吐き出す。やかんから出る蒸気のような白い息が出る。
ベランダの外を覗くと、人の気配はなく、道を走っている車はまばらだ。
マンションの十階からの眺めは良いが、あまり外を見ていると下へ吸い込まれ、落ちてしまいそうでなので、急いで家の中へ入った。
キッチンに立ち、「さぁ作ろうか!」と宣言する。
前にある掛け時計に目をやると、朝の七時だった。日曜日の朝くらいもっと寝ていたいのに。すぐに起き上がらずに、布団の中で何も考えず白い天井でも見ていれば良かった。
冷蔵庫から、牛乳、卵一つを取り出す。あと、砂糖と六枚切りの食パン二枚を用意する。
バットに卵を割り入れ、溶いていく。卵白と卵黄が完全に混ざったら、牛乳を100cc計量カップで計り、バットに入れて卵と牛乳を混ぜ合わせる。白と黄色が徐々に混ざっていく。私のやりきれない感情も混ざるように混ぜていく。綺麗なクリーム色になったら、砂糖を大さじ1、いや、今日は1.5にしよう。砂糖をバットに入れ、混ぜ合わせて、パン一枚を六頭分に切る。二枚目も切り終わったら、パン全てをバットに入れ、液を染み込ませる。私のやりきれない感情も染み込んでいく。パンを裏返して、しばらく待つ。
「りん〜もうすぐ焼き始めるからね」
パンに全部液が染み渡ったのを確認して、フライパンに火をつける。手をかざし、手のひらに温かさが伝わってくる。冷蔵庫からバターを取り出して、フライパンに適当な量を入れると、すぐに溶け始めた。ジュワッと溶けて、バターの良い香りが鼻腔をくすぐる。日曜日の朝の匂いだ。
フライパン全体にバターが行き渡ったら、液に浸していたパンを一つずつ丁寧にフライパンに並べていく。時々焦げ付かないように裏返す。パンに染み込んでいた感情は、蒸発し、それを吸い込んでまた私の中に入ってくる。
パンをまた裏返す。うん。良い焼き加減だ。
「りん〜できたよ〜持っていくね〜」
可愛い花柄のお皿に盛り付けて、リビングの横にある和室に持っていく。
「りん。はい! うちの定番、日曜日の朝食はフレンチトースト!」
りんのとびきり可愛い笑顔が写っている遺影の前にお皿を置いて座った。
「りん。あの時なんでママはフレンチトースト作ってあげなかったんだろうってずっと後悔してる」
りんがいなくなる最後の日曜日、私はその日朝から頭痛がしてフレンチトーストを作る気力がなかった。りんには食パンをトーストしてあげて、ジャム塗って食べて、と渡した。りんはその時、フレンチトーストじゃないと嫌だ、と言って泣いた。泣いたけれど、私は作らなかった。いいから食パン食べて、と言って。まさか、最後の日曜日になるなんて思わなかった。これからもフレンチトーストなんて作る機会はいっぱいあると思っていた。
「ごめんねぇ……。最後食べさせてあげたかった……」
りんがいなくなって三ヶ月が経ったけれど、涙が枯れることはない。目から涙が溢れて、頬をつたう。
「りん。ママ一人でこんなに食べれないよ……一緒にたべようよ」
「ママ……」
呼ばれて振り向くと、寝癖をつけて優しく微笑むパパがいた。
「パパ……」
パパが私の横に座った。
「りん。ママのフレンチトースト最高だよなぁ〜!」
そう言ってパパは遺影に笑いかけている。でも、目の中には涙が溜まっているように見えた。
「りんが……ママのフレンチトーストは世界一って言ってくれたことがあったの」
「そうか、そうか。嬉しいなぁ」
「うん」
「よし! ママ! 涙を拭いて食べよう! 悲しみは半分こ! フレンチトーストも半分こ!」
私は服の袖で涙を拭いて笑った。
「フレンチトーストは半分こじゃないでしょ! パパがいつも半分以上食べてるじゃん」
目を潤ませながらパパが大きな口を開けて笑った。
「りん、来週も作るから、フレンチトースト」
読んでいただきありがとうございます!
短編を書くのが苦手なのですが、書いてみました。
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