第二十二羽 ありがとうの続き
山のふもと。
風は冷たくない。
春の匂いがする。
里香は、ぽてえなを両手でそっと包み込んでいた。
強くはしない。
逃げ道を残すように。
「……いっておいで」
声は、小さかった。
手が、ひらく。
ぽてえなは、最初、何が起きたのかわからなかった。
あれ?
ここ、ぬっくじゃない。
地面。
空。
「……?」
反射的に、里香のほうへ戻ろうとする。
「……」
里香は、何も言わず、
ただ手を振った。
にこっと笑って。
そのとき、ぽてえなは察した。
わからないけど、
わかってしまった。
これは、お別れなんだ。
胸が、きゅっと縮む。
ふと、思い出す。
雪の地面。
指で書かれた、あの文字。
「ありがとう」
読めなかったけど、
あたたかかった。
ぽてえなは、地面に降りる。
小さな足で、
必死に書いた。
「あ」という文字を。
形にならない。
でも、いい。
伝えたいだけ。
里香は、それを見た。
拙い「あ」という文字だった。
その先はなかった。
でも里香には何を言いたいのかすぐ分かった。
そして、
泣いた。
溢れる涙。
声を出さずに、
静かに。
ぽてえなは、もう振り返らない。
羽を広げる。
春の風が、背中を押す。
空へ。
高く、高く。
山のほうへ。
里香は、見えなくなるまで手を振っていた。
ぽてえなは、飛びながら思う。
こたつも。
ホットミルクも。
いらない。
心の中に、
ちゃんと、ぬっくがある。




