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第十四羽 かすれていくもの

春の森は、音がやわらかい。

雪はほとんど消えて、地面は少しだけ湿っていた。

そんなある日のことーーーーー


ぽてえなは、青虫と一緒に歩いていた。

飛ぶより、今日は歩きたい気分だった。


「ここ、なんか気になる」


ぽてえなは立ち止まる。

理由はわからない。

胸の奥が、すこしだけ、きゅっとした。


足元を見ると——

雪だった場所に、まだ白が残っている。


でもそれは、雪じゃなかった。

溶けかけた地面に、うっすら残る跡。



「……これ……」



ぽてえなは、近づいて目をこらす。


線。

丸。

まっすぐな跡。



——文字だ。



読めないのに、わかる


雨と雪解けで、ほとんど消えかけている。

風が吹けば、もうなくなってしまいそう。


青虫が聞く。

「なにが書いてあるの?」


ぽてえなは首を振った。


「……わからない」


でも。


胸が、じんわり温かくなる。

ホットミルクを飲んだときとは違う。

こたつに入ったときとも違う。


もっと奥。

心のいちばん静かなところ。


「たぶん……やさしいこと」


ぽてえなは、そう言った。




ぽた、ぽた、と

上の枝から水が落ちてくる。


一滴落ちるたびに、

文字は少しずつ薄くなる。


青虫が不安そうに言う。

「消えちゃうよ」


ぽてえなは、少し考えてから答えた。



「……いいの」



そして、そっと目を閉じる。




雪は溶ける。

文字も消える。

キャンプ用品も、もうない。


でも。


あの冬。

あのぬくもり。

あの気配。


それは、ぽてえなの中に残っている。


ぽてえなは、小さくつぶやいた。



「ありがとう」



誰に向けた言葉かは、わからない。

でも、確かに届いた気がした。




ぽてえなは羽を広げる。

青虫は、見上げて言った。


「行こう」


「……うん」


飛び立つ前に、もう一度だけ振り返る。


そこにはもう、文字はほとんど残っていなかった。

でも——


ぽてえなは、ちゃんと覚えていた。


ぬっくじゃなくても、

こたつがなくても。


心は、春のままだった。

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