第十三羽 青虫との冒険
~第一歩の冒険~
友達になった翌朝。
春の森は、まだ少しだけ冬の名残を抱えていた。
ぽてえなは枝の上で、いつものように外を眺めていた。
こたつもホットミルクも、もうない。
それでも胸の奥は、なぜか冷えなかった。
そのとき、下からちょこんと声がした。
「ぽてえな、どこか行こうよ」
見下ろすと、青虫が葉っぱの上で体を伸ばしている。
ぽてえなは一瞬考えて、ぷいっと顔をそらした。
「……べつに、行くところなんてないし」
「じゃあ、探しに行こう!」
青虫はまぶしいくらいに笑った。
その無邪気さに、ぽてえなは負けた。
~見知らぬ場所へ~
ぽてえなは低く飛び、青虫を背中に乗せた。
羽は少し不安定だったけど、ゆっくり、慎重に。
「うわぁ……高いね」
「落ちたら大変だから、動かないでよ」
森の奥へ進むにつれて、空気が変わっていく。
知らない匂い、知らない音。
ぽてえなの心は、どきどきしていた。
怖い。
でも——
誰かと一緒なら、大丈夫な気がした。
~忘れられた場所~
しばらく飛ぶと、小さな開けた場所に出た。
そこには、雪解け水でできた浅い水たまり。
そして、風に半分埋もれた——マグカップ。
ぽてえなは、思わず息をのんだ。
「……これ……」
青虫が首をかしげる。
「知ってるの?」
ぽてえなは、胸がきゅっとなった。
こたつ、白い湯気、優しい人間の気配。
「……見たこと、ある」
青虫はそれ以上聞かなかった。
ただ、そっと隣にいた。
水たまりに映る空は、もう春の色だった。
~小さな試練~
突然、風が強く吹いた。
マグカップがごろんと転がる。
「危ない!」
ぽてえなは反射的に青虫を庇った。
羽が枝に引っかかり、バランスを崩す。
一瞬、体が宙に浮いた。
——でも、落ちなかった。
青虫が必死にぽてえなの羽毛を掴んでいた。
「離れないよ!」
その声に、ぽてえなは力を取り戻す。
ふたりは、転びながらも地面に降り立った。
~冒険の終わりと、始まり~
しばらく無言で座っていたあと、
ぽてえなは小さく笑った。
「……ちょっと怖かった」
「でも、楽しかったね!」
ぽてえなは、照れたようにぷいっ。
でも、羽は少しだけ弾んでいた。
この森は広い。
まだ知らない場所ばかり。
でももう——
ひとりじゃない。
ぽてえなと青虫は、並んで空を見上げた。
その空は、
あの日こたつの中で見た夢よりも、
ずっと、ずっと自由だった。




