第十羽 ぽてえなと里香のお別れ
春先の気配が雪解けの隙間からそっと顔をのぞかせる頃、
ぽてえなはいつものように、こたつの中でぬっくりぬっくり温まっていた。
そのとき——
ふっ と影が差し込む。
ぽてえなは即座に「ひっ…!」と体を縮め、
近くの木の枝へふわっと飛び移った。
現れたのは、あの人間。
里香。
いつものようにホットミルクやこたつ布団の整え直しをしに来たのだと思った。
でも、里香の動きは違っていた。
ぽてえなの大切な“冬ごもり道具”——
こたつ、毛布、キャンプセットを静かに片づけ始めたのだ。
ぽてえなの黒い瞳がぱちん、と大きく開かれる。
「え……なんで……?」
そんな顔をして、枝にしがみついたまま動けない。
少しして、里香はぽてえなに背中を向けたまま、
ほんの小さな声でぽつりとつぶやいた。
「就活があるから……忙しくなるの。
来れなくなる、ごめんね……シマエナガ……」
その意味は、ぽてえなには分からない。
ただ、その声は冬の風よりも、ずっと遠く感じた。
片付けが終わると、
里香は雪の白い床にしゃがみ込んで、指で何かを書いた。
そして何も言わず、振り返りもせずに去っていった。
ぽてえなは、しばらくぼんやり立ち尽くしていた。
葉っぱの影さえ動かない静けさの中で。
しばらくして、そろそろ……と雪に近づいた。
そこには、見慣れない形の模様。
人間の“文字”。
読めない。
理解できない。
それなのに——
ぽてえなの目から、ぽたぽたと涙が落ちていく。
理由なんて分からない。
ただ、胸のあたりがぎゅっとして、
冷たい風よりもずっと切なくて、
それでいて、ほんのり温かい。
ぽてえなは涙をぬぐいながら
もう一度その文字を見つめた。
その文字が、
雪の上で静かに光っているように感じた。
ありがとう
5つの跡が、ぽてえなの小さな心の奥にそっと灯りをともした。
もう、ホットミルクがなくても。
こたつがなくても。
――ぽてえなの心の中には、あの“あたたかさ”がずっと残っている。
だから、きっと大丈夫。
春の風に乗って、新しい一歩をふわりと進んでいける。




