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太陽と月の姫~婚約破棄は大夜会で~

作者: 伊守
掲載日:2025/11/06

 ベッタベタの話を書いてみたくてこうなりました。

 姉と婚約破棄をし、妹に乗り換えようとする男。

 果たして彼の目論見は上手く行くのか(いきません)

 王都、王宮主催の大夜会。恒例の年二回とは違う季節外れの招待に国中の貴族が登城した。

 その中でも伯爵以上の家格を持つ高位貴族の集まる一角で、突如として騒ぎが巻き起こる。

 周囲の高貴な人々の耳目は、自然とその中心へ向かった。


「アリアーネ・スフォルツァ! 私は今此処で其方との婚約を破棄し、其方の妹君レミリア・スフォルツァ嬢と婚約することを表明するっ!」


 正式なパートナーとでしかありえない近さで婚約者以外の女性の腰を抱く青年――ファボーレ伯爵家次男、ロベルト・ファボーレは自らの婚約者に指を突きつけ声を張り上げる。

 姉の婚約者に腰を抱かれているのはスフォルツァ上級伯爵家次女、レミリア・スフォルツァ。薔薇色のドレスを纏い、豪奢な金の巻き毛がシミ一つない白磁の背中まで流れ、極上の紫水晶のような紫の瞳が強い存在感を放つ。その眩いばかりの美貌に大輪の花が咲き誇るかのような笑みを浮かべる彼女には、周囲全ての視線を奪う圧倒的な華やかさを持っていた。昨年デビュタントを終えたばかりの弱冠十五歳でありながら、王家の姫君を差し置いて【太陽の姫】とまで称される、誰もが認める国一番の美女である。

 婚約者と実妹に相対するは、スフォルツァ上級伯爵家長女アリアーネ・フォン・スフォルツァ。婚約者が大夜会に際してドレスを送るという最低限の礼儀すら果たさなかったので、好みの深い蒼で作らせたドレスを纏った彼女は凛と立っている。

 月光を閉じ込めたような銀髪が、乱れ一つなく真っ直ぐに白磁の背中を覆い隠し、妹と同じ色である筈なのに酷く冷ややかな紫水晶の瞳は人を寄せ付けない。

 今現在も、並みの令嬢であれば卒倒するか取り乱すかしても不思議ではないような場に臨みながらも彼女に揺らぎは殆どない。その完璧な美しさは氷の彫刻のように孤高で触れがたく、妹にちなんで【月の姫】と呼ばれていた。

 その月の姫は、口元を髪と同色の扇で隠しながら僅かに眉間に皺を寄せる。


「何を愚かな事を仰っておられるのです、ロベルト様」

「誰が見ても其方よりもレミリア嬢の方が優れている! レミリア嬢に其方が勝る部分など、学業のみでは無いかっ!」


 隣のロベルトの言葉にレミリアが小さく何事か呟くも、一世一代の大舞台とばかりに気を昂らせているロベルトの耳には届かない。


「婚約破棄はこちらとて望むところではありますが、それで婚約相手をレミリアと交代と……。そのような事が許される訳がないでしょう」


 冷たい一蹴は、相手の気勢に油を注ぐ。


「レミリア嬢の方が我がファボーレ家に相応しいのは明らかだっ! 大人しく身を引くがいい!」


 ――パンッ。


 涼やかな音が一つ。手元の扇を勢い良く閉じたアリアーネは深く深く溜息を吐きながら愚かな婚約者――これから「元」がつく――を見据えた。


「レミリアがファボーレ家に、貴方に相応しい? 何を世迷い事を。寝言は寝てから仰って下さいな」

「妹を愚弄するか! やはり其方は心根の醜い女だ、そんな女を妻になど――」


「違います。下らない思い上がりをなさらないで。貴方『如き』が我がスフォルツァ上級伯爵家掌中の珠であるレミリアに釣り合う訳がないでしょう」


 一刀両断。見守る人々には、アリアーネが見えない刃をロベルトに向って振り落とす幻影が見えた。


「ねぇ、上級伯爵家に婿入りする相場の持参金のすら満足に工面できない財政状況のファボーレ伯爵家次男のロベルト様」


 冷ややかな声がロベルトを、ロベルトのプライドをずたずたに切りつける。


「従属爵位も持たぬ、伯爵家格の中では最下位のファボーレ伯爵家次男のロベルト様。爵位を継ぐ妻を得られなければ、お兄様が伯爵となられたら平民となるお立場のロベルト様」


 閉じた扇を頬に添え、絶対零度の眼差しを向けながらつらつらと続けるアリアーネに、ロベルトは呼吸の仕方を忘れた魚のように口を閉じたり開いたりするしかない。

 レミリアに惚れてからは自分「達」の恋の障壁だとばかり思っていたスフォルツァ家の――貴族家当主と後継者にしか許されないフォンの称号を持つアリアーネとの婚姻は、継ぐ爵位を持たないロベルトを貴族位に留める為に必死で両親が整えてくれたものだ、ということを漸く思い出し顔面蒼白になる。

 そも、アリアーネの言う通り同じ伯爵を冠する家とはいえ上級伯爵であるスフォルツァ家とそうではないファボーレ家には明確に線引きがある。

 そのうちの一つが、王妃王配を輩出する資格があるか。或いは王子王女の降嫁を賜る栄誉を受けられるかどうかだ。


「一体貴方の何が、我が妹に相応しいのです? ――貴方こそ、妹を愚弄なさらないで」


 相変わらず魚の真似をするばかりのロベルトからは返事はない。下らない、馬鹿馬鹿しい。軽蔑を視線に滲ませていたアリアーネは、一転して柔らかな声で呼んだ。


「レミリア。此方にいらっしゃい」

「はい、お姉様」


 鈴を転がすような可憐な声で素直な返事を返したレミリアは、敬愛する姉の下に足早に向かう。背後で聞こえた、あ、というほんの小さな声は彼女が足を止める理由にはなり得ない。

 だって、レミリアがロベルト「如き」の相手をしていたのは、いずれ敬愛する姉に婿入りして義兄になる者だと思っていたからだ。その前提条件が崩れた以上、レミリアにロベルトに付き合う理由など何一つ無い。


「駄目よレミリア。いくらレオンハルト殿下が護衛をつけて下さっているからとはいえ、あのような男の傍に居ては貴方の名に傷がついてしまうわ」

「ごめんなさいお姉様。あの方にお姉様との結婚式の相談があるからと言われてしまって。勿論レオン様のお許しは頂いておりましたわ」

「まあ、それなら安心ね。流石よ、レミリア」


 唐突に出てきたレオンハルト――この国の次期王であるレオンハルト第一王子の名に、周囲全てが理解した。

 十九歳にして婚約者を未だ定めていなかったレオンハルトが最近婚約者を内定させたらしい、というのは貴族の中では風の噂として聞こえてきていた。そこにこのスフォルツァ上級伯爵家の姉妹の会話である。この国の次期王妃が誰に決まったのか、全員が――顔色が紙のようになっているロベルトすらも、理解させられた。そしてこの季節外れの大夜会が何の為に開かれたものであるかも、同時に全員が知る。

 その時、まるで誰かがタイミングを計っていたかのように、正装した近衛兵達が隊列を組んでやって来た。自然を道を開ける貴族達の間を通り、ぴたりと足を止めた彼らは最敬礼を捧げる。――国賓と王族にしか向ける事が無いそれを、貴族令嬢でしかないレミリアに捧げたのだ。その事が示す事実は一つしかない。


「レミリア・スフォルツァ様。レオンハルト殿下がお召しにございます」

「はい、只今参上いたしますわ。……お姉様」

「いってらっしゃい、レミリア。胸を張って? 貴方は誰よりも相応しい」


 ほんの僅か抱き合った姉妹は分かれていく。姉はこれから女性として至高の栄誉を受ける妹を誇らしげに見守り、妹は栄誉と重責を同時に引き受ける自信の根源となる家族へ、姉への愛情を胸に王子の下へ。

 その場でへたり込んだロベルトに、もはや誰も興味関心を向けていない。

 レオンハルト王子の下へ導かれたレミリアが、国王により王太子妃に決定したと紹介される時も、それに割れんばかりの拍手が巻き起こった時も、レオンハルト王子とレミリアが大夜会のファーストダンスを見事に踊り切った時も、貴族達のダンスが始まり、アリアーネが王弟である大公の一人息子と手を取り合ってダンスフロアに出てきたときも、誰一人としてロベルトに視線を向けず――。




 大夜会が終わった後。

 ふらふらと泥酔したような足取りで自邸に戻った彼を待ち受けていたのは、ロベルトの有責での婚約解消を告げる、スフォルツァ家からの手紙とそれを握って泣き崩れる両親の姿だった。















登場人物


・アリアーネ・フォン・スフォルツァ

 スフォルツァ上級伯爵家の長女、次期上級伯爵。スフォルツァ上級伯爵家の「月の姫」。同家は伯爵家格の筆頭であり、並みの侯爵家では足元に及ばないほど裕福である。父方祖母は先の王妹という由緒正しいお家柄。

 才色兼備の銀髪紫眼のクールビューティー系美人だがシスコン。割と重度である。

 元々ロベルトとの婚約は幼少期に両親が取りまとめたものであり、領政や家政に何の興味も示さない彼は種馬役さえ務めればあとは勝手にすればいいと考えていた。 

 しかし近年の身の程知らずな振る舞いをよく思っていなかったが、最愛の妹に粉をかけられてついにブチギレ。切り捨てることにした。


・ロベルト・ファボーレ

 浪費癖のあった先々代以降、貧乏なファボーレ伯爵家の次男。同家は従属爵位が無い(先代が借金の返済の為に売却した)為、自ら貴族位を持つ女性と結婚するか叙爵されるような勲功を上げなければ平民となる立場。見目はまあまあだがオツムは残念。裕福なスフォルツァ家に婿入りできるという慢心が彼をより堕落させた。

 アリアーネを何においても優先し敬い結婚して貰わねば人生詰むのだが、その立場を忘れて夜会で様々な女性に粉をかけ、挙句にアリアーネの最愛である妹レミリアにちょっかいを出した咎により切り捨てられた。この後平民落ちし、行方不明となる。

 


・レミリア・スフォルツァ

 スフォルツァ上級伯爵家の次女、王太子妃に内定している。スフォルツァ上級伯爵家の「太陽の姫」

 金髪紫眼の誰もが認める国一番の華やかな美女だがシスコン。割と重度である。

 実家に仕える者から婿を選んで一生涯お姉様のお傍に、と考えていたが彼女に一目ぼれした王太子の猛攻に会い陥落した。

 というか、王太子がレミリアの一番がアリアーネであることを認め、またアリアーネへ様々な便宜を図ることを約束したので受け入れた。お姉様LOVE。

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