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拾った人が実は人ではなかった話

作者: ほな

 夜の、一日が始まってちょっとの頃。

 友達との遊びが終わり、疲れ切った体のまま家に向かっていた頃。

 まだ帰りたくないな。遊び疲れた体とは違って、頭は遊び足りない。好きな人と遊んだ後はいつもこうだ。頭がうるさい。

 この状態だと眠るのも大変なんだろう。

 明日は実家に帰るって言ってたから早めに起きないといけない。寝坊したら、進まない車達の中で延々とラジオを聞くんだろう。それは嫌だ。

 とても嫌だ。

 早く寝て、早めに起きないと。

 その為にはこの頭を落ち着かせる必要がある。外でもう少しだけうろうろしてたら、満足するだろう。

「ん…」

 公園でも行くか。ベンチに座ってぼーっとすれば多分落ち着くと思う。

 そう思って家に向かっていた足を止めて、近くの公園を目指して歩き始めた。

 人のいない街を、ゆったり。

 酔いが回った体が右に左にと忙しなく揺れる。やっぱり飲み過ぎたんだ。

「ぅ……」

 くらくらする。

 公園に向かう前は大丈夫だったけど、どうしてだろう。帰ろうって体が言っているのか。やっぱり夜中に街中をうろうろするのは間違っていたんだ。

 帰ろう。

「………?」

 帰ろうって思った瞬間、声が聞こえた。

 多分人の声。話し声なのかな。

 でも声が一つしかいない。独り言なのかな。

 こんな夜中に公園で独り言を言う人はどんな人なのかな。

 まともな人じゃないだろう。

 いやむしろまともな人なのかも知れない。朝にはまともだけど、夜にはまともじゃなくなるみたいな。まともまとも思ってたら、まともが何なのか曖昧になってしまった。なんだろうまともって。

 よくわかんないけど取り敢えず、声のする方に行ってみようかな。気になる。

 こんな夜に外を歩く人はきっと楽しい人なのだろう。まともかどうかはわからないけど。

「ぅーん…」

 声のする方にちょっと進んだら、すぐ。人の姿が見えた。

 見た目はとても普通だ。昼に街中を歩くと似たような顔をした人が何人かは見えるくらい、普通。平凡。

 でもやっぱり、独り言を言っている。

 つまらないとこは見た目だけだ。

 どんな話をしてるのかと耳を澄ましてみると。

「うんうん」

 とか。

「そうだな」

 とか。

「そうだよ」

 とか。

 相槌だけを打つだけだった。それもなんだか適当に見える。

 電話でもしてるのかな。スマホは見えないけど。

 イヤホンとかはつけてないっぽい。

 じゃあ相槌だけの独り言うってことなのか。とても変な人だね。

 なんだら、めっちゃ面白そうな人だな。

 仲良くなってみたい。

 こっそり公園の木陰に身を隠して、その人に近付いてみる。

 足音を殺して、そーっと。

「ぁん?」

 ばれた。なんで私こういう時だけよくばれるの。

 待ってこれひょっとしたら通報されるのかな。こんな夜中にこっそり人に近づいて行ったのだから通報されたら危ないんじゃないかな。

 面白そうだったから知らない人にこっそり近づいてみましたとか、めっちゃ不審者なんだけど。

 じゃあどうすればいいのか。ここは昔の知り合いのふりをしたらどうにか乗り越えたり出来るのかな。でも知り合いは木陰に隠れてこっそり来ないんだよな。

 取り敢えず、挨拶からするか。

「こんばんは」

「…?」

 こいつなに?って顔になってるよ。

「誰ですか」

「私宮沢紗奈って言います」

「そうですか」

 なんか、私に興味を持たないな。なんでだろう。

「あなたは何て言いますか?」

 ばれてからもっと近づいてみたけど、周りに誰もいない。会話が出来そうな……声を交える事が出来るような動物とかも見えない。

 やっぱり一人で相槌を打っただけなのかな。

 じゃあやばい人だな。

 そんな人をこっそり観察しようとした私もやばい人だよな。

「内緒です」

「?」

 こいつなにぃ?

「お好きに呼んでも構わないです」

「名前は?」

「内緒です」

 ふんふん。物凄く面白い人だな。

 さすが一人で夜中にぶつぶつ話すような人だ。

「なにしてましたか」

「声を出していました」

「なんでですか」

「声を出したいからです」

「なんでですか」

「さっき言った通り」

 ふんふん。よくわからない。

 なにこの人。

「紗奈さん」

「はい」

「拾って」

「なんでですか」

「紗奈なら拾ってくれるって」

 なんだなんだ。急に距離が近くなってきた。

 それにあれがって指で指しても誰も見えないけど。

「あ、見えないんだ」

「なにが見えるの」

「内緒」

 うーん、こういうタイプ嫌いじゃない。

 子供には見えないから、家出とかはないだろう。じゃあ拾ってみるか。

「わかった。拾ってあげる」

「わぁい」


 ☆


 と、いうわけで……二週間が経ちました。

 拾った子は普通に食べ物食って寝て生きている。

「さなぁ、ご飯」

 とか言いながらね。

「待ってって」

「それ五分前も言った」

「五分でご飯は出来ないの」

「私は出来るよ」

「それカップ麺」

 こういうところは面倒だけど、一緒に住んでかなり楽しい。友達とばいばい言って帰っても友達と一緒にいる感じがする。いつでも誰かと一緒に遊ぶ感じ。

 めっちゃいい。

 私って人との繋がりで生きて行く人なんだから、こういう生活環境はとても精神健康に肯定的な影響を与えるとかなんとか。

「ぅわ……」

 変な事考えてたら焦げた。

 ……お肉だから大丈夫、だろう。うん。ウェルダンって事。

「まだ?」

「こら座ってろっつてんだろ」

「お腹空いたから」

「待て」

「でもでも」

 なんだか育児するみたいな感じもするんだよな。

「もうすぐだから」

「いつも言ってるそれ」

「あんたはいつもお腹空いてるでしょう」

「仕方ないもん。食べても食べてもお腹空くし」

「そもそもなんでそんなに大食いなの。体はちっちぇのに」

「私狐だから人の食べ物ではあまり満足できないの」

「そうですね」

 この子自分の名前は教えてくれないくせに、自分は神様の下で働いたことがある狐だったとかは教えてくれるんだよな。まぁたぶん嘘だろうけど。

 耳の尻尾もないし。

「だから早くご飯をわたせ」

「待ってろって」

 狐かどうかは知らんけど、放っておいたら大変になる。

 前に好きに食べろっつったらにんにくをもぐもぐと口中にいっぱい詰め込んだ時があったから。あの時は喋るとにんにくの匂いがして大変だった。

 豆腐一つをそのまんま口中にいっぱい詰め込んだ時もあった。

 鍋に入れるはずのキノコを生で齧った事もあるからね。

「あぅ痛い」

 今もお肉を狙って目をきらきらしてる。ちょっとそっぽを向いたら取られちゃうんだろう。

 そうなる前に、軽く額を叩いた。

「座ってろ」

「うぅぅぅ」

 叩かれたところをいつも痛そうに擦るんだよなこの子。

「ほらほら、終わったから座れ」

「……」

 額を叩かれて拗ねちゃったみたいで、キッチンの隅っこ逃げてしまった。こういうところのせいで育児みたいって思ったのかな。

 子供より動物の方が似合うかも知れない。

「決めた」

「なにを?」

 料理をテーブルに運び終えた頃、あの子がなにかを言って消えちゃった。殴られたからご飯食べないって意味なのかなこれ。

 いやぁそこまで子供じゃなかったけど。

 まぁ部屋にでもこもっちゃったんだろう。

「どこ行ったの?ご飯出来たから出て来いー」

 そう思って部屋に入ったら。

「わん」

 なんとなんと、狐が。

「なにしてんの?」

 尻尾が九つもあって、黄色い狐がベッドに横たわっていた。

 普通白いとかじゃないのかな毛の色。

「なんで冷静なの」

「人は認知を超えたものを前にした場合、頭が止まっちゃうのよ」

「そうなんだ」

「だから戻ってくんい?」

「うん」

 うわ、言葉通り瞬く間に人になっちゃった。

「ご飯出来たよ」

「聞いた」

「じゃあ出て来い」

「うん」

 なんだか、めっちゃ現実的だな。

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