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「ーーあの大通りのカフェにあるケーキがおすすめで、今の季節だとーー」
ペラペラと、あまり興味のない内容を自慢げに話す、目の前の令息に少しイライラとする。それをおくびにも出さず、ニコニコと笑ってはいるが、段々と聞き流すのすら飽きてきた。
(……これ、いつまで続くのかしら。)
つい先程、担任の話が終わり、今日は解散となった教室で、帰りの支度をして席を立った。廊下に出て歩いていると、私の進行を邪魔する令息がいたことに驚いた。
(私のことを知らないのか、なめているのかよね……。どうしようかしら。)
一応黙っていれば、儚げで守りたくなる美少女と言われた私は、傷物でなければ早く婚約も決まっていただろう。
そのためか、公爵家との繋がりが欲しい者や、私の容姿や魔法の素質が欲しい者からの、求婚は絶えないらしい。
ため息をつくのをぐっと我慢して、観察をする。
目の前の令息の目的が分からず、対応に困っていると、後ろから足音が聞こえた。
ふわっとラベンダーの香りがして、私の腰に腕が回る。
「リア。迎えに来たよ。」
「あっ、シリウス。」
私が名前を呼んだことで、目の前の令息の眉がピクリと動いた。私に向けて微笑んでいたシリウスは、黙ってしまった令息へ目を向けると、表情が消えて冷たい印象になる。
「……リアに何か用?というか、君誰?公爵令嬢であるリアを馬鹿にしてる?僕も知らないってことは、君、子爵以下だろ?」
冷たく言い放ったシリウスに、ぎょっとしてしまう。
ーーゲームでのシリウスも、アメリアが見てきたシリウスも、とても優しかったから。
(……物語とずれていると知ってるけど、これが本来のシリウスなのかしら?)
私が呑気なことを考えている間にも、シリウスは更に彼へ詰め寄っている。
「なんとか言ったら?君ごときが、リアを手にできると思ってるの?」
「シリウスっ!私は大丈夫だわ。……ほら、ね?」
ガタガタと震える、目の前の彼から気を逸らすように、シリウスの腕を撫でる。険しさの消えた顔で、私をジッと見た後、腰に回した腕に力を入れ、引き寄せられた。
「えっ。」
私が抗議をする前に横抱きにされ、有無を言わさずにどこかへ連れていかれる。
「シ、シリウス?私重いわよ?」
程よく筋肉をつけているため、他の令嬢より重いだろうと、シリウスへ告げたが目線を私に向けた後、ふわっと微笑んだ。その表情に、周りで見ていた令嬢が騒いでいるのが聞こえる。
「リア、可愛いよ。」
「……今、そんな話してなかったと思うわ。」
可愛いの言葉に、ドキドキと鳴る胸を落ち着かせて、答える。
「それよりも、下ろして。貴方のせいで目立ってるわ。」
文句を言うように頬を膨らませると、シリウスは、ふふっと笑う。
「僕だけのせいじゃないと思うけどね。」
小さく呟いたシリウスの言葉は、風に乗って消えていった。ジッと私に視線を落として、そっと下ろし立たせると、シリウスは私の手を引く。
「学園、案内するよ。迷子にならないでね。」
いつものように柔らかく微笑んだシリウスは、そのまま周囲に見せつけるように、私の腰に手を回して学園を案内してくれた。
学園は十六歳から三年通う中等部と、十九歳から三年通う高等部に別れている。貴族は中等部を出ることが普通だと言われており、高等部は跡継ぎや、王宮で文官として働きたい者が通う。
シリウスは高等部にあがり、校舎が違うのだが『ティアレイン騎士団』という、学生の騎士団のような隊で隊長をしている。そのため、よく中等部にも顔を出すのだと言っていた。
「私も、騎士団に入る予定なの。」
そう言うと、シリウスは困ったように笑う。
「……リア。無茶だけはしないでね。」
その言葉に素直に頷くと、ティアレイン騎士団について教えてくれる。
「中等部と高等部には、それぞれに隊長と副隊長がいるんだ。副隊長は三人で、隊長も副隊長も実力と推薦で決まる。」
「じゃあ、やっぱりシリウスはすごいのね。」
私の言葉に苦笑したシリウスは「次は守りたいからね」と呟く。よく聞こえなくて、聞き返そうとするがその前に、シリウスは続けた。
「騎士団は情報共有として、隊長と副隊長の合計八人で、週に一回会議があるんだ。」
だから中等部にも来ることがあるのだと、笑うシリウスに「そうなのね」と微笑む。
それから共用エリアの食堂や訓練場を見て周り、寮まで送ってもらった。
終始、微笑みながら柔らかく話すシリウスに、周りがザワザワとするくらい珍しいことなのだと、その時の私は知らなかった。




