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ベタベタし過ぎとご指摘頂きました。
気になる方はブラウザバック推奨です^^;
走馬灯とはこういうことを指すのだろうか。
自分に迫り来る魔力の塊を視界にとらえて、呑気にそんなことを思う。驚いている幼馴染を押しのけて、無事ならまぁいいかなんて思考が頭をよぎった。自分の銀髪が乱れているのが見える。
それと同時に、見たことのある景色が目に映ったことで、頭を殴られたような感覚に襲われた。
(……デジャヴ?ってなんだっけ……?)
唐突に流れ込んでくる映像に気分が悪くなるが、正直それどころじゃないと思い出す。
先程までなかった記憶から、魔法はイメージだと知った私は、咄嗟に魔力を練りだし目の前に向けて放った。しかし中途半端に練られた魔力では、完全に相殺することは出来なかったようだ。体が弾き飛んだ感覚がして、鋭い皮膚が裂けるような痛みと共にやってきた、焼けるような熱さで意識が遠のいた。
ーー思考が纏まらない。
ふわふわとする頭で、自分に襲いかかる痛みだけは、はっきりと分かる。
(……痛いっ!熱いっ……!苦しい……。)
自分の体の中が燃えているような気がする。遠くから、普段は穏やかで冷静な、幼馴染の焦った声が聞こえている。息苦しさに顔を顰めながら、気力を振り絞って目を開ける。
「リアっ!!リア!……ごめんね。僕のせいだ……!」
大好きな人の悲痛な叫びが聞こえて、握られている手に力を入れる。驚いたように私の名前を呼んでいる人に、大丈夫だと伝えたくて笑いかけた。
息を呑んだ幼馴染の顔を見て、やっぱり彼が好きだと思っていた。
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自分が好きだった、ラベンダーの花の匂いが鼻をかすめる。意識が浮上して目を開けると、夜なのか辺りは真っ暗だった。ぱちぱちと瞬きをして、視線を動かす。色は分からないが華やかな壁紙に、棚にはファンシーなぬいぐるみ。私が寝ているベッドには天蓋がついていて、纏められているカーテンは、レースで可愛らしい。
「……何、この可愛らしい部屋。っ!……うぅ、いったぁ……っ!」
ほんの少し身じろぐと、肩から背中にかけて激痛が走った。思わず涙目になってしまい目を擦ると、目の前に現れた子供の手に驚いた。
「……え。」
それと同時に、自分の身に起こったことを思い出して、息を吐き出す。確かめるように、見慣れたはずの銀髪をつまんで持ち上げ、「マジか」と呟いた声は暗闇に消えていく。
(……前世の死因、なんだっけ……?……あの日は、グッズの発売日だったんだっけな?)
日本という国で生まれた私は、幼い頃から体が弱く、病室のベッドの上で過ごしていた。生きることが辛くて、元気に走り回る子達が恨めしくて、どうして私がと呆然と生きていた。
そんな時に、親が暇潰しにと買ってくれた、乙女ゲーム『ティアレイン物語』にハマってしまった。全キャラクターを攻略し、特に気に入ったキャラクターに関しては、十周以上もプレイしていた。
そんなゲームのグッズの発売日だったあの日。急に苦しくなる心臓を押さえ、ナースコールのボタンを押したところで、記憶が途絶えている。
(……結局、推しのグッズ買えなかったなぁ。シリウス、の、……えっ。)
そこまで記憶を整理し、推しの名前を思い出したところで、思考が止まった。
(……シリウス・ヴェルディア。)
前世の記憶では無い自分が知っていた。ゲーム画面で見た事のない推しの姿を。幼い頃の可愛らしい姿を。
(いやいや、アメリアなんて、聞いた、こ、と……あれ……?)
ーー亡くなった幼馴染。
推しがゲームで語っていた設定に、冷や汗が止まらない。
シリウスと仲良くなることで語られる、後悔の思い出。幼馴染を目の前で亡くしたと言う、シリウスの悲痛な顔がよぎって、つい胸の辺りの服を握りしめる。
そうだ。自分は本来、あの瞬間ーー死んでいたのだ。
ぐるぐると、部屋が回っているような感覚に、気分が悪くなってくる。
すると、ガチャと部屋のドアが開き、入ってきた人物と目が合った。
「……っ!リア!……ああ、私の可愛いリア。良かったっ!目が覚めたんだね。」
私を見るなり泣き出した人物に、ヘラッと笑いかけて口が動く。
「……お父様、泣きすぎだわ。」
お父様はすぐに使用人に声をかけ、お母様達を呼んだ。私のベッドの横で私の手を握って、泣きながら良かったと漏らすお父様に、愛されていることを実感した。
しばらくすると、バタバタと足音が聞こえて、すぐに部屋に入ってきた三人は、私の顔を見てほっとした表情になる。
「リア、良かった。……ほんと無茶するんだから!」
綺麗な蜂蜜色の金髪がウェーブを描き、若葉色の瞳がうるうるとしている。いつもは穏やかに笑っている、三十代前半の女性は安堵に顔を歪めていた。
「本当だよ。リア。お転婆にも程があるよ。」
先程の女性とよく似た優しげな容姿で、私の愛称を呼ぶ十三歳の少年は、今にも泣き出しそうだ。
「そうよ。お姉様はもう少し落ち着いてください!」
綺麗な金髪をおろし水色の瞳を細めて、呆れたように見ている七歳の少女は、怒ったように腰に手を当てている。
「ごめんなさい。お母様、ルークお兄様、ローラ。」
私が苦笑してそう言うと、本当に分かっているのかと口々に言われる。それでも心配をかけて、本当に死の手前だったことを思えば、いつものように「いいじゃない」なんて言うことは出来なかった。