信仰と違えるモノ
宗教対立の煽りも無いが、土地を欲して神社を潰そうと、廃仏毀釈の逆を打つ新興宗教団体の信者が二人。
一方は毒を用いようと一斗缶を持ち、一方は仏罰とした者を切り刻んだ遺体を袋に入れ持ち、池の裏手へは白装束で残雪に隠れ忍びやって来た。
先ずはと一方の男が遺体の入る袋の口を池へと向け開き、後ろでもう一方の男が袋を上げ下げして押し流し、垂れる血に池の水を赤く染めつつ時折コロコロと溢れ落ちる肉の塊に飛沫を立てては、池に波紋を広げる。
白装束の失敗に、袖口には血の飛沫が付着し目立つ赤。
飛沫を抑えようと考えたのか、袋の口を池に浸けるが落とす肉の塊の大きさ故に、飛沫の立ちようは変わらない。
「ぅ゙ぅ゙っ」
慎重にそっと落とそうとして袋の口を見詰めては、顔と判る肉の塊に思わず嗚咽が漏れそうにもなる。
池前で持つが損な役目にも思え、後ろの信者を憎々しく感じて来る中、やはり肉の塊だけでは沈まないのか、飛び石の方で浮かぶ肉片に目が行った。
「まずいかもです。早く撒いて逃げましょう」
そう言って袋の口全てを池に浸け、人目に付く前にと一気に流し込むのに、後ろの上げ方を確認しようと振り向く刹那……
池に浸けた信者の腕を何かが捕らえ、一気に池中へと引き摺り込んだ。
――DABOOONN――
後ろに居た信者は何が起きたか判らず、池へと落ちた信者を引き上げようと柵に手をかけ覗き込む。
が、次の瞬間。
――KASAKASAKASA――
背後の笹薮の中から蠢く何かの音に振り向くと、しめ縄ほどの太さを有する白き大蛇が現れ、這い寄る都度に顔の高さを上げるも全容は如何程なのか、信者の頭を越えて尚も笹薮に尾を残す。
白き大蛇に見込まれ声も上げられずに口を開けた信者は絶望に震え、白き大蛇は眼下の愚者に罰を下すかにゆっくりと口を開いて喰らいつかんと牙を見せた。
――DABOOONN――
焦りに怯え逃げるも出来ず立ち尽くす信者の震える足に池の何かが喰らい付き、その何かが水面で跳ね回る回転運動に足をすくわれ敷石に頭を打ち付け気を失い、そのまま池へと引き摺り込まれて二人の信者は姿を消した。
――KASAKASAKASA――
岸には毒物マークの一斗缶と遺体の一部が残る袋があったが、白き大蛇はそれらを巻き付け笹薮の中へと持ち去り、一斗缶は丘下の道路脇にと置かれていたが袋は無い。
周辺地域で鼠が増えたと云う話を聞くも一時の事に、マネーロンダリングの如く鼠として浄われたのなら食すモノも有るのだろう。
血色に澱む池は信者が流し入れた遺体の血色より濃くなるも、池の底へと沈んだ信者が二人とあれば知れた事、語るも蛇足に思えて来る。
池に浮く肉の塊も翌朝には消え、妙な赤色も雨模様に見る者も居らず、池の水は雨に流され丘下の川へと流れ込む、水量の違いに色は消え失せ、正しく水に流されていた。