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願いの飛び石


 東西南へと三方の丘陵が始まる裾野の街には河川の分岐もあるが故、住める土地を襲う自然災害を鎮める為にと様々な土地神様を祀る神社が各々に建てられ鎮座する。


 南方へとせり上がる丘上に奉られた巳鑑(ミカン)神社は、参道の中腹に池を持つ事からインドで云われる川の神様でもある弁天様を祀られている。


 その参道から見る池の奥には浮島があり、そこにもお社が奉られており、お社の裏側には奉納や管理に使われるのか、両足を置くのがやっと程の飛び石が三つ。


 けれど池の周囲は丘の斜度もキツく、お社の裏手は草木が鬱蒼と生える手つかずの丘林になっており、そちらへ踏み入れるには社務所の許可に丘上の本殿を抜けた裏側から降りるしかない。


 当然許可される事など凡そある筈もないが、何故にそうまでして行きたがる者が居るのかと言えば、ネット発信のとある噂が発端だ。


 街の有権者が票田参拝に訪れた折に拝殿にて神職と話す中、宝物庫に保管されていた神社の歴史を描いた絵巻物や伝承を記した古文書類を拝見したとの逸話を雑誌のインタビューで応えていたが、その記事の中で触れた話が数十年経って思わぬ所で火が点いた。


 記事では池に伝わる話を描いた絵巻物の中に、先ほど触れた三つの飛び石らしきものが描かれており、池には願いを叶える神様が住まうとされ、本殿にて参拝を済ませた後に、帰りの参道から池に向かい願かけする事を薦めていた。


 素より地元ではそうした習わしに沿う参拝方法が当たり前となっていたが、現代に至りその逸話は、承認欲求でSNSや動画配信の評価や共感欲しさに、他にネタを求め出す折の格好の餌食となってしまった。


 兎角映えと言っては服や食事や観光地やと、己の作った物でもなく自然や他の者が作ったそれをネタにし己の評価を求めるは、己のネタが尽きた時点で己の才が無い事にすら気付かぬ餓鬼そのものとも言える。


 自分は大学で齧っていたから古文書も多少は読める等と豪語し、ネットの掲示板に晒されていた当時の記事の画像を基に検索し、別の誰かが上げた神社の古文書らしき物を読み解いたとする動画配信にて、恰も論を拡散した。



 それは「池の裏手の飛び石まで二人一組にて向かい、飛び石に乗り願いをかけると一方の願いが叶う」というもの。



 当然のように神様の敷地内で無礼にも勝手を行ない裏手へ周り、飛び石に乗り願うにも一つ一つの石は九十㌢程の間隔を空けている上、藻や薄氷の張る石に滑り池へと落ちる者は多く、知らぬだけで水難事故に沈む者が居る可能性も低くはない。


 そうした噂に神職も策を講じて柵を立てたが、掴まる手摺りに扱い日に止まない。


 本来は神職が年に一度池へ鯉を放ち、参拝者はそれに餌をやったり池の畔を掃除したりする程度のものだった。


 それがいつの頃からか池にも賽銭を投げ込む輩が増え出し、挙げ句の果てが馬鹿者の承認欲求により無礼にも神域に不法侵入で裏手へ周り、不敬な願いに勝手をやってはネットに上げるバカッターを呼び込んだ。


 神社が伝承の真実を掲げる以前の問題が多過ぎて対応するにも金がかかるが、勝手をやるバカッターは池に五円を放るをマナーと常識人振り、神を冒涜した上に仕事を増やして願いを聴けと、池や沼にスラングを言うネットの餓鬼は己の事とは気付きもしない。


 腐った餓鬼が故か、鐘の音にも煩悩を湧かせ年末年始を避けて来るのだが、その理由は丘林の薮中に潜む虫や蛇を避ける為と思われる。


 神社の名にもある通り、巳鑑(ミカン)神社の周辺には蛇も多く、階段脇の笹薮が夏場の参拝の妨げになる事から刈られはするが、必要の無い池の裏手の丘林は手つかずのまま。


 それ故に初詣客の少ない師走の頭や二月の中旬から三月の上旬と、冬眠覚めやらぬ時期を狙ってやって来る。


 神様に願いを聞いてもらう以前に、厄介者としての自覚を持つべきだが、いつからかそんなバカッターの間で囁かれるようになった話からは、天罰覿面(テンバツテキメン)に神様を怒らせたのだろう事を分からせる。


 何せ動画配信された古文書の解読話は間違いだらけなのだから、罰当たりも当然に思えてしまうというもの。



 ふふ、噂をすれば何とやら、今日も傲慢な餓鬼共が二人一組にやって来たようで……


 

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― 新着の感想 ―
巳鑑神社。名前もいいですね。 日本の神は祀らなければ祟るもの。礼儀を弁えない者たちの末路が怖そうです……(O_O;) どう展開していくのか楽しみにしています。 話は変わりますが『トライ』のバナー! …
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