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こころに残された石ころ

 河川敷でランニングをしている二人組が、一定のリズムで過ぎ去った。影は遠くなるけれど、足音や衣擦れや吐息の余韻が、一定のリズムを刻んでいる。


 僕たちは長いベンチの端と端に座り、午後の長閑な風景を眺めている。


 高校を出ていつもの通学路を外れてしばらく北へ、彼女に連れられるままに歩いた。その間、浅く薄っぺらい雑談をしていた。こんなに女子と話をした事はついぞなかった。


 なのに今は、お互いまったく話をする気にならない。人をのんびりとさせる不思議な空気が流れている。


「浜田さあ、なんで部活なんか入ったの?」


 先に静寂を破ったのは彼女だった。


「逆にアグレ、岩里さんはなんで部活に入らなかったの?」


「今なんて!?……て言うか、質問返ししてるし」


 彼女にいつの間にか呼び捨てされていたので、僕も呼び捨てしようかとも思ったが、良きタイミングがなかったので見送った。


「ああ~私はね、転校してきて、今さら出来上がってる所に入ってやりたい事もなかったし、馴染みたいとも思ってなかったからかな」


「そういえば転校生だったっけ」


「で、浜田は?」


 何故、部活に入ったのか。


 小学校の時に誘われてサッカーを始め、それなりに楽しさも覚え、自分に向いてる気がしていたからやめる理由も無く、ただただ続けていた。


 自分の学力に見合っているという理由で進んだ高校に、僕を誘った奴は居なかったから、実はサッカーを続ける理由も無かったのだ。


 なのに気が付くと入部していて、またサッカーに興じている自分が居た。何故だか、自分にもわからない。


「惰性、かなぁ」


「へえ~!」


「なに?」


「いやぁ、前は言い訳がましくごちゃごちゃ言ってたから。こいつちょっと大人になったじゃん?と思って」


「格好付けて言うと、運命、かな」


「うるさいわ」


 彼女は菜の花のように笑っている。先ほど彼女と雑談していた時も思ったが、彼女はよく笑う人だ。それも決して喧しさが無く、楽しそうに優しく笑う。


 その可愛いさのせいで、僕の心は好きに傾いてしまいそうになるが、気の迷いだと何とか振り払って、親しくならないように振る舞った。


「部活の話、前にした事あったっけ?僕に用事っていうのも、その時の事と関係してるんでしょ?」


「したじゃん。本当に覚えてないの?ほら、一年生の同じクラスだった時さあ、たまたま放課後の教室で二人きりになった時に」


 そう言われるとそんな事があったような気がしてくる。確か、僕は忘れ物に気付いて教室に戻り、そこで彼女を見つけたのだ。自分の席で一人、黄昏に微睡んでいる彼女を。


「ずっと心残りだったんだ。君の退屈そうな酷くつまらない顔が」


「あはは、そんな顔してたっけ?」


「してたよ。そのまま窒息死するんじゃないかって顔」


 彼女は淡々と断言した。今はそこまで深刻ではないが、当時は生きているのも億劫になるくらい行き詰まっていた。彼女の目に映った僕がどんな表情をしていたのかを想像していると、僕は今どんな表情をするべきなのかわからなくなってしまった。


「だから今日は、浜田を辞めさせるために来たんだ」


「それだけのために……?」


「そ、やり残してた事を全部終わらせようと思ってさ」


 彼女は立ち上がって三歩、川の方へ歩くと振り返り、僕に微笑んだ。


「私、転校するんだ」


 日に照らされた彼女の笑顔は、割れてしまいそうなくらい儚く眩しかった。背景に虫の鳴く声がする。僕は沁み沁みと、全身で夏を感じ取った。

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