第九十六頁 波乱の香り
ここは食堂。
何時もの様に、パンのいい香りがする。
甘くて温か~~い香り。
これが幸せ幸せ。
出来立てのパンが私は大好き大好き。
だけど……
「アイラちゃん。昨日はあの後、何処に行ってたんだい」
これは王子様。確か、名前はデュランダル? いや、デュランマッコイ? いや、フェルグス・マックロイ?
もう、わからん。この人の名前長すぎ。
「王子。アイラさんにもプライベートと言う物がありますので、どうか御理解を……」
そう言ってくれているのは、グレイス先生。ありがとう、グレイス先生。
「グレイス先生。何故、貴方が僕とアイラさんの会話に入ってくるんですか?」
と、王子様。
「どうしたんですか王子? 貴方らしくないですよ」
本当に何故だかわからんが、この王子様、昨日とは打って変わって、かなりピリピリしている。少し、その…… イヤだ……
普通に怖い……
なんか、怒られてる気分になってくる。
変な薬でも打って、変わってしまったのかもしれない。どうしよう……
「グレイス先生。貴方はやけにアイラさんと親しげですが、どういった関係なのでしょうか?」
「お、王子? 貴方は一体何をおっしゃっているのですか?」
不味い。私の頭上で成立しない、言霊のキャッチボールが行われている。
正直、意味がわからん。
意味がわからんが!!
私の勢い良く立ち上がった!!
「私は昨日、図書館の地下に居ました!! 日が暮れるまで!!」
何故だかピリついてる王子様に向かって言い切る。
「成る程、図書館の地下か…… それじゃあ、見当たらない訳だね……」
「え? 探したんですか?」
私がそう言うと、王子様は申し訳なさそうに頷いてみせた。
「貴方。昨日はもう付きまとわないって言ったじゃないですか!?」
コイツ、完全にストーカーに成っちゃったよ!! お巡りさん!! コイツです!! コイツをでデスしてください!!
「いや、その、それは…… 勘違いしないで欲しいんだ。少し聞きたい事があっただけで……」
いやいや、いやいやいや!!
それはムリ!! ムリムリカタツムリ!!
「い、一日ぐらい待ちましょうよ!!」
「うっ! そ、それは確かに、今にして思えば、君の言う通りだ、返す言葉もない、申し訳ない……」
そう言うと、王子様は先程のピリピリとした雰囲気から打って変わって、しおらしくなってしまった。
な、なんだ。ちゃんと謝れるじゃねぇか……
それに妙にしおらしいくなっちゃって……
ま、まあ、いいか。なんかのっぴきならない事情があったのだろう……
「取り敢えず、お……」
落ち着いたなら、どうしてピリピリしてたのか教えてくださいよ。と言おうとした瞬間、私と王子様の間にグレイス先生が割って入った。
「王子、貴方…… アイラさんの事を付きまとっていたんですか?」
え!? 今度は何? 何? 何?
今度は打って変わって、グレイス先生がピリピリしだした。
なんだなんだ!? 変な薬でも流行ってんのか!? 皆、打って変わっちゃったのか!? メンタル、ロックンローラー、ジェットコースターになってんのか?
もう意味がわからん!?
誰か助けて!?
ユ、ユヅキさん!! 助けて、助けに来て、ユヅキさん!!
そんな心の叫びを挙げても、ユヅキさんが来る気配はない。
うぅ、そりゃ、当たり前だよね。
どうしよう……
「貴方達! 何をやってるんですの!!」
その時、食堂の入り口から良く通る声が響いた。
そして、その声のした方向に目をやると、そこにはドリル女こと、フレン・ラスカさんがいた。
無論、ドリルをジャラジャラとぶら下げている。
その様を見て。私は自分の顔から血の気が引いて行くのがわかった。
もうダメだ、ロクな事が起きない。それだけは確信が持てる。
どうしよう、頭がクラクラして来た。
不味い、不味い不味い不味い。ここで気を失ったら、多分一層話がややこしくなる。耐えろ、耐えるんだ!! アイラ!!
「貴方達。王子の御前ですよ! 下賤の者が同じ目線で話すとは何事ですか! 平伏なさい!!」
いや、そこまではしねぇよ……
と、思っていると、その矢先、王子様が一言口を開いた。
「ラスカさん、貴女は黙っていて下さい」
何処か冷たく、機械的な声だ。それが、日頃の彼とのギャップを感じさせ、余計に冷たく感じさせる。
これ、きついよ……
ラスカさんは多分、王子様の味方をしようと割り込んで来たんだよ。それをそう言ったら、ラスカさん、泣いちゃうよ。
見ると、ラスカさんは泣いてはいないが、呆然としている。正に言葉を失ったと言う感じだ。
因みに、私はラスカさんが登場してきた辺りから言葉を失ってるし。意識も失いそう。
一体全体、何が起きてるんだ。
そして、これからどうなってしまうんだ……




