第九十三頁 図書館・地下へ
「先ずは、召喚術成る物が何かを教えよう」
オーク先生が地下への扉を開けると同時に口を開いた。
そこにはやはりと言うか、なんと言うか。石で作られた階段があった。そして、恐ろしいことにその階段は相当に深いらしく、底が見えない。
まるで、そのまま地の底へと繋がっているかの様だ。
オーク先生は慣れた足取りで階段を降りた。
「さあ、着いて来い。詳しくは道中説明しよう」
そう言うとオーク先生は人差し指を立てると、そこから光の玉が現れた。ちょっと昔に似た物を見たな。
私も、それ出来るようになりたいな、と思いながらオーク先生の後に着いていった。
「召喚術とは一言で言った物の、その実は複数の魔術の複合応用術式となる」
既にさっぱりだ……
「先ずは対象を何かしらの形で封印。そして、契約により対象を縛る。そして、降霊術を用いて、対象を呼び出し。呼び出した対象を契約により操り、戦闘や目的の遂行の為の力とする。これが召喚術の基本系だ……」
いや、意外と理解出来たな。
だけど、それが何って感じなのだが?
「この中で、封印術は私も修めている。しかし、他の分野は正直そこそこだ、実戦レベルにない。しかも、降霊術に関してはからっきしだ」
オーク先生が何を言わんとしているか、今のところわからないが、順を追って説明してくれているっぽいから、今は真剣に話を聞いておこう。多分、最後には理解出来る筈だ。
理解出来なかったら。私は馬鹿でしたと言うこと。
「召喚術と言うのは、複数の分野の術式を実戦レベルで修め、初めて意味を成す術式と言うことだ。しかし、そのレベルで複数の術式を修めている魔術師と言うのは居ない。そんなまどろっこしい事をするくらいなら。自分の得意な分野を極めた方が効率が圧倒的に良いからな」
うん、確かにそんな気もする。
オーク先生ですら、からっきしって言ってる分野がある位だ。普通の魔術師を目指すと言うのなら、広く浅く修めるより、一点に特化した方が良いと言うことだろう。
極論、言ってしまえば。何人か魔術師なり、仲間なりがいたら、自分の弱点分野を仲間に補ってもらった方が効率は良い。
そんな所だろう。
あれ? 我ながら頭良い?
となると、広く深くを求められる召喚術と言うのは、大変効率の悪い術となる訳か……
でも、そうなると疑問が残る。
「あの、それならば何故、昔は召喚術があったんですか?」
「うむ、悪くない疑問だ。単純な話、昔の魔術師は一人で何でも出来ねばならなかったのだ。今のように、学園なんて物もなかったからな。魔物や魔獣の手も借りたかったのだろう」
なるほど、魔術師達が屈強な時代の術だった分け方。となると、今の魔術師達はゆとり世代と言った感じなのだろうか。
「そして、我々魔術師が組織を成し。文明が発達するにつれて、暴走する魔物や魔獣の力を借りるより。人と人、魔術師と魔術師が協力する方向へと体系が変わっていったのだ」
なるほど。まさか、このタイミングでちょっとした歴史の勉強をするハメになるとは……
「ただ、逆説的に言えば。現在の魔術師は仲間が居なければ、機能しない存在になって来ているのも事実。冒険者ならば、前衛が時間を稼いでくれなければ直ぐに死ぬ。そんな事が当たり前になってきている。ゆゆしき事態よ」
なるほど、確かに魔術師ってそんなイメージ。
「そんな中、召喚術を学ぼうとする生徒が現れるとはな。このゆゆしき事態を嘆いて未来を見据え、道を進む事ができるとはな。そんな者はそうそうおらん。素晴らしいぞ」
いやいや、違う違う。
私、召喚術使えるけど、一人じゃ闘えないよ~
やっぱり、前衛は必要だよ~
そんなことを考えていると、底にたどり着いていたらしく、足元が階段でなく平らになった。
その全容は暗くて見えないが、かなりの広さが有るだろう。しかも、かなり階段を降りたから、相当の高さもありそう。
「いいか、この蔵書は図書館から持ち出し禁止の古書達になる。出入りの際は教師か司書の付き添いが必須となる。いいな?」
「は、はい……」
なかなか、めんどくさそうだな……
「写すことは問題ないが、本の扱いはくれぐれも丁重にな」
「は、はい……」
うへ~ めんどくせ~
「取り敢えず、召喚術の書は一番奥の棚にある。奥まった、所に有るほど古い書物になる。覚えておくと良い」
そう言うと、オーク先生はおもむろに奥へと歩いて行った。私とはぐれない様にその後に着いていく。
すると、先生は一番奥の棚から一冊の本を取り出し、こちらに差し出した来た。
「本来、魔術書と言うのは最新の物に成れば成る程に、体系化と効率化が進み、価値の有る物となるが、こと召喚術の書となると原初の書が最も知見を深めるのに最適だろう。これを読むといい……」
「は、はあ…… 一応、最新の書も価値があるんじゃないですか?」
「ないな。召喚術としては苦肉の策の様な理論しかない。利用できそうな所だけ、再利用した、と言う研究がかかれているだけだ。まあ、それが後に封印術や降霊術の基礎に関わって来たりするので、学術的に価値が無い訳ではないが、召喚術の基礎と言うならば、この本ならばその全てが載っているので不要だ。だが、後に読破することは推奨する……」
は、はあ……
なんだか、目が回りそうだ……
私はオーク先生の差し出した本を受け取ると、本の背を眺め。題字を読んだ。
「『召喚術の基礎知識』本当に基礎っぽい。題名ですね。著者は…… あ、アイライン……」
「うむ、その方が召喚術の祖となる人物だ。昔は家名制度の無かった時代の方だ。何の因果か、お前と名前も似ておるな」
そう言うとオーク先生はこちらに笑みを向けて来た。
向けて来たけど、当の私はそんな場合ではなかった。
だって、似てるって言うか。ほ、本人なんですが……




