第八頁 特別なスープ
「ほら、これをお食べ。嫌いな物とか無いかい?」
そう言うとお婆ちゃんが俺の前にシチューを置いてくれた。
そこには人参やブロッコリー、ジャガイモに鶏肉と言った慣れ親しんだ具材が浮かんでおり。とても暖かそうな湯気を上げている。
そして、ほんのりとするミルクの甘い香りが食欲をそそる。
「大丈夫です! 私、なんでも食べられます!」
「そりゃいい! 家内が作るシチューは絶品だからなぁ。きっと、気に入るハズだ!」
俺がそう言うと、向かいに座っていたお爺ちゃんが笑いながら口を開いた。すると、その勢いのままにシチューをすくい、口へと運んだ。
そして、味を確かめる様に深く頷くと、柔らかい笑顔をコチラにみせてくれた。
思わず笑みが溢れてしまう。
なんて、温かい人達なんだ。
先程まで号泣していたから、目の横の辺りがヒリヒリするけど。今はそれ以上に、二人の温かさが心地良く身に染みる。
本当に困った時に、手を差し伸べてくれる人が居ると言うことが、これ程までにありがたいとは思っても見なかった。本当にありがたい。
「気に入ったら、たんとお食べなね」
「はい! ありがとうございます!」
そう言うとお婆ちゃんがパンの入ったバスケットを食卓の真ん中に置いてみせた。
俺は、そっとシチューをすくうと、ゆっくりと口へと運んだ。
ミルクの甘い良い香りと湯気が鼻をくすぐる。そして、シチューを口に入れると、温かくて甘く香ばしい味が口の中で広がっていった。
「……おいしい!」
柔らかくて温かくて優しい味がする。
恐らく、塩、胡椒の類いが使われていないんだろう。だから少し薄味だ。でも、不思議と深みとコクのある味わいがする。これは人参とジャガイモ、そして、鶏肉から出る出汁による物だろうか。いや、良く見ると小さく刻まれた様な玉ねぎが入っている。
きっと、これだ。
玉ねぎはとっても良い味を出す。これがシチューに深みとコクをもたらしているんだ。そして、それを人参とジャガイモの出汁が補完し、最後に鶏の旨味成分が全体を底上げしているんだ。
はう、美味しい……
シチューに浮かぶ野菜達も新鮮でとても美味しい。芯から涌き出るような野菜本来の甘味が空腹に染み渡る。まるで、口の中で旨味が踊っている様だ。
鶏肉もシチューによく煮込まれ、口に入れた瞬間にほぐれる。そして、その肉から出る旨味が口の中に広がる。
もう、とにかく美味しい。
「とっても、美味しいです!」
「だろ? 家内が作るシチューは大陸一なんだよ!」
「違うよぉ。アンタの野菜がイイ出汁を出すんだよ」
そう言うと、二人は一斉に笑い声をあげた。
なにをイイ年してノロケてんだ。と思う物の、こんな年になっても、こんなやり取りが出来る関係って、とても素敵だなと思った。
俺は溢れそうになる笑顔を浮かべながら。暫しの間、美味しいシチューに舌鼓を打った。