第八十一頁 天元突破フレン・ラスカ
まさに天元突破。
金の縦ロールをじゃらじゃらとぶら下げたお嬢様がそこにはいた。
見目麗しく容姿端麗なその姿。そして、凛とした目鼻立ちに意思の強そうな翡翠色の瞳。ちょっとキツそうな顔をしているとも言えなくないけど、人を惹き付けるには十分すぎる美しい見た目とドリルを有している。
彼女の周りをうろついている有象無象の取り巻き達も少しキツい顔をしている様な気がするが。しかし、皆して非常に整った顔立ちをしており、その周辺は何処と無く高貴な雰囲気が漂っている様に感じられる。
「彼女はフレン・ラスカ。魔術師の大家ラスカ一族の息女です」
グレイス先生が小さくそう呟いた。彼の気まずそうな表情から察するに余り良い生徒では無いのだろう。
まあ、ぞろぞろと取り巻きを従えている所を見ると何だか面倒臭そうな雰囲気はする。
なんと言うか悪役令嬢って感じがする。
多分だけど関わったら絶対に面倒なことになる。なので私は厄介事に巻き込まれない様にと、彼女等に視線を合わせない様にそっぽを向く。
そして、パンをモグモグと咀嚼する。
「あら、そこの貴女。確か……」
そんな声がするが、私はパンをモグモグと咀嚼する。ネズミのように……
「ちょっと、そこの貴女、ラスカ様が話しかけているのに無視するとは無礼じゃなくて!?」
取り巻きの一人の声が聞こえてくる。
なるほど、先程の声の主がラスカ様でございますか。
それにしてもまったく。どうやら、あのお嬢様集団を無視する不届き者がいるらしい。本当に無礼ですわね。無視とかしちゃだめザマスよ。面倒ごとは勘弁して欲しいですわよ。
「そこの貴女!! 無視してないで、ラスカ様の話を聞きなさい!!」
と、さらに取り巻きの声が聞こえてくる。まったく、ラスカ様の話を聞いてくださいですだよ。
こんな食堂と言う憩いの場で無益な争いなんてしないで欲しいでごわすよ。
「貴女のこと言ってるんですわよ!!」
その時、ガッと私の肩が掴まれた。そして、グイッと無理矢理向きを変えられると私の視界にはラスカ様とその取り巻きが写った。
ああ、話しかけられていたのはおいどんでごわしたか……
「貴女は先日、特待生として入学した生徒ですわね?」
そう言葉を発したのはラスカお嬢様だ。
まるで、鈴のように金のドリルをジャラジャラと揺らしている。
そして、こちらを見下すような視線を向けている。
「は、はい。そうでふ……」
パンをモグモグしてたので変な感じになってしまった。「そうでふ」とか言っちゃった。
「貴女、行儀が悪いですわよ。食べ物を食べながら喋らないで下さいまし!」
今度は取り巻きがそう口にした。すると、それを合図にしたように周りの取り巻き達も何やら小さな声でヒソヒソと話し出した。
取り敢えず「お里が知れる」だの「田舎者」だのと言っているので悪口を言われているのは確かな様だ……
て言うか、食べながら喋るなって言うなら。食べてる時に話し掛けないで欲しいでごわす。
「それに貴女! その格好はなんですか!? このローブは由緒正しき学園の生徒である証ですのよ!! それなのに、その着こなしはどうなってるんですか!?」
そう言うと取り巻きの一人がこちらを指差して来た。見ると、その指先は私のローブと言うか、ケープを真っ直ぐと指していた。
「いえ、でも学長がこれで良いって……」
「そんなの関係ありませんわ。貴女は学園の風紀を乱していると言う自覚がありませんの?」
そう取り巻きが意気揚々と口にした。て言うか、さっきから取り巻きばっかり喋ってない? ラスカお嬢様、少ししか喋ってないじゃん。
いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか……
ううむ。私が風紀を乱しているか。学長が学長だし、門限も無い感じだから。かなり自由な校風なのかと思っていた。
あと、可愛いから良いじゃん、とか思ってたでごわす。
けど、そうではないらしい。どうしよう。取り敢えず謝っておくか。変に維持張ってややこしい事になるのは御免だし。
「これは配慮に掛けておりました。申し訳ありません」
「ふん。所詮は下賤の民ですわね。いくら見繕おうとも、所詮は猿ですわね」
いや、それはヒドくない~
いくらなんでも猿はやめてよ。
せっかく謝ったのに~
せめて、下賤の民にしてよ~
「貴女達、そこまでですよ」
その時、グレイス先生が私と取り巻き達の間に割って入った。
どうやら、仲裁に入ってくれた様だ、これはありがたいでごわす。
しかし、そんなグレイス先生を他所に取り巻きの一人が一歩前に出るとグレイス先生を小馬鹿にするような表情を浮かべた。
「ふん。成り上がり風情が生意気に口答えするつもりですか!?」
その言葉にグレイス先生の眉がピクリと動いた。
よくわからんが、失礼な言葉なのだろう。明らかにグレイス先生が怪訝な表情を浮かべている。
ちょっとなんか嫌な感じだな~
自分がバカにされるのは正直どうだって良いけど、グレイス先生がそう言う扱いをされるのは、なんか悲しいな~
私は一言言ってやろうと勢いよく立ち上がると口を開きかけた。しかし、その瞬間……
(アイラさん、落ち着いて下さい……)
そうグレイス先生が小声で呟いた。
見ると、グレイス先生は手で落ち着けと諭している。
そのグレイス先生の冷静さに私は不服ながらも取り敢えずは怒りの矛を納めることにした。
そんな私の様子を確認したグレイス先生はゆっくりと頷くとおもむろに口を開いた。
「それでは私達はこれで……」
そう言うとグレイス先生は丁寧に一礼すると、私の手を取り食堂を後にしたのでしたでごわす。
 




