第八十頁 学園
少しだけ、前回の出来事を思い返してみる。
殺したくなかった命を奪ってしまったこと。そして、そんな彼は死の間際、私の本の中へと入って行ったこと。
今でも感じる。
彼の魔力の拍動が……
間違いなく彼は私の召喚獣として本の中で息づいている。
しかし、どうして彼は私の本の中へ入って行ったのか……
「はあ……」
やはりわからない。純粋に死にたくないからなのか。
それとも、偶然契約を結ぶことが出来た、ただそれだけなのか。
まず第一に私の本がどう言った物なのかも、これが未だにわからない。
やっぱり、初めはここら辺から探って見るか……
「アイラさん、どうしました?」
声のした方向に視線を向ける。すると、そこにはお盆を手に持ったグレイス先生が立っていた。
ああ、そう言えばそうだった。
私は今、学園の食堂にいるんだった。
見ると、私の目の前には美味しそうに湯気を立てているシチューに、出来立てのまま、甘い香りを漂わせているパンがお盆に乗っている。
これは私が頼んだ朝御飯だ。この学園で一番安いメニュー。でも、今までの生活と比べればかなり上等なご飯だ。
「すいません、失礼しますね」
そう言うとグレイス先生が私の前の席についた。見ると、グレイス先生も私と同じシチューとパンのセットを頼んでいた。
それを見て、思わず微笑んでしまう。
「私と同じメニューですね」
「ええ、これが一番安いんで」
「選んだ理由も同じですね♪」
私がそう言うと、グレイス先生は少し微笑ま、パンをちぎり口に放り込んだ。
私もそれに習ってパンを口に放り込む。
うん、ほいしい。出来立てで暖かいし。フワフワでほんのり甘い様な気がする。
この気がするが重要だったりする。
「何か考え事をしていた様ですが何かあったんですか?」
「ほえ?」
ああ、そうか。そう言えば私は顔に出やすいタイプだったよね。きっと悩んでるのが丸わかりの表情をしてたんだろうな。
まったく、我ながら一体どんな表情をしていたのだろうか。
私はそんなことを思いながらも、グレイス先生に事情を話した。
「……と言った経緯でユニコーンを倒したんです」
「それは素晴らしではないですか。アイラさんはかなり腕が立つ冒険者なんですね」
そう言うと、グレイス先生が朗らかに笑ってみせた。そして、スプーンを持つとシチューをひとすくいして口へと運んだ。
「本当は倒す予定ではなかったんですが。仲間がユニコーンに“魅了”されてしまって、倒すしかなかったんです」
「ああ、ユニコーンは神秘性の“魅了”を持っていますからね」
グレイス先生がさも当たり前と言った様子で受け答えをしてくれている。
そう言えば私はなんで“魅了”を受けなかったんだろう。もしかしたら、グレイス先生に聞けば教えてくれるかな……
「グレイス先生。私はユニコーンの“魅了”を受けなかったんですが、どうしてなんですか?」
私の問いかけにグレイス先生は大きく頷くとおもむろに口を開いてみせた。
「なるほど、それで何やら悩んでいたのですね。わかりました、では私が少しばかり講釈を垂れるとしょうか……」
そう言うとグレイス先生は真剣な顔を作ると語り始めた。
ううむ、正直一番の悩みの種はそれでは無いんだけど……
まあ、それも疑問に思っていたことの一つだから有り難く聞かせて貰おうかな……
「“魅了”と言う物にも大きくニ種類あります。魔術として相手に掛ける“魅了”。そして、魔術等とは関係なく、その存在から自然に放たれる魔力のによる“魅了”です」
ほほう“魅了”にもそんな感じです種類があるのか。やはり色々と知らないことが沢山あるな。
勉強になる。流石先生さんだ。
「ユニコーンの“魅了”は後者に当たります。ユニコーンの神秘性を纏った魔力に当てられると“魅了”状態になってしまいます。その神秘性に見惚れてしまうんですね。この神秘性による“魅了”は世間一般的な“魅了”と言うより“信仰”に近いですかね……」
「ああ、確かに“魅了”と言っても、私の想像してた“魅了”とは少し違ってました。魔力の性質で“魅了”の性質の変わるんですね」
その言葉にグレイス先生が大きく頷いてみた。私はそのままの勢いで彼に向かって質問をしてみた。
「なら先程も言いましたが、私はなんで“魅了”に掛からなかったんですか?」
「それは魔力の量の問題です。ユニコーンから放たれる魔力を払い除けられるだけの魔力を持っていれば“魅了”は自然と抵抗出来ます。魔力が足りなくても“魔力防壁”で防ぐことが出来ます」
はあ、なるほど。魔力の精神攻撃みたいな物だから“魔力防壁”で防げるのかな。
それに私は魔力量が多かったから“魅了”に掛からずに済んだのか……
うん、やっぱり。有識者に話を聞くのは効率がいいな。
私が感心していると、グレイス先生は面白そうに笑うとおもむろに口を開いた。
「因みにアイラさんの魔力は相当な量です。なので少ない魔力しか持たない人からすると“魅了”の魔力を振り撒いている様な状態なんですよ。気づいていましたか?」
「え? そうなんですか?」
私の言葉にグレイス先生が頷く。
「大量の魔力を持つ者の宿命。あるいは呪いの様な物です。因みに学長も凄まじい魔力を持っているので、どんなに押さえ込んでも“魅了”を振り撒いてしまうんです。学長にお会いした時とユニコーンと遭遇した時、似たような感覚を覚えたのでは?」
グレイス先生の言葉に勢いよく頷いてしまう。まさにそうだ。似たような感覚に襲われた。
「学長も神秘性に類する系統の魔力を持っていますからね。魔力に耐性が無い者ならば、彼女に“魅了”されてしまいます」
「なるほど、そういうことだったんですね。勉強になりました……」
私は有難い講釈に一礼して見せる。
見ると、グレイス先生が嬉しそうに微笑んでいる。何時も冷静な表情をしているけど。やっぱり彼の笑顔は素敵だ。
それこそ人を“魅了”すると思う。
……それにしても面白いな。
魔力は人を惹き付け“魅了”する訳ですか……
なんか上手くコントロール出来れば色々と便利に使えそうだな。まあ悪用は厳禁なんだろうけど……
好きな人とかをどうこう出来ちゃうのだろうからな……
ただ私はどうすれば“魅了”を使えるのかもわからないからな。どうするつもりもクソもないんですどね。
そんな事を考えながらパンをちぎると口へと投げ込んでみせる。
その時、ひとしおの喧騒と共にある集団が食堂にやって来た。
あらあら、お友達が沢山いておよろしいこと。
流石は学園と言うかなんと言うかですね。楽しい学園ライフをエンジョイしているみたいで羨ましい限り。
私は喧騒を纏う集団に視線を投げると、先頭にいる人物が私の目に飛び込んできた。
「な、なんですかあれ……」
そこにいたのは絵に描いた様な縦ロールの金髪ドリルお嬢様がいた。
そう、まさに天元突破していた。




