第七頁 農園のお爺ちゃんとお婆ちゃん
俺は若干の涙を流した後、直ぐにお爺ちゃんの家にマシマロと共に案内された。すると、直ぐに奥の方からお婆ちゃんが顔を覗かせて来た。
「あら! そのキレーな娘は誰だい、アンタ?」
「いやな、この娘。三日も飯を食ってないらしいんだよ。だから、飯食ってけって、連れて来たんだ」
お爺ちゃんが言うには「そんなに腹が減ってるなら。ちょうど家内が昼飯を作ってるから。食ってけ」との事だそうだ。
お爺ちゃんがそう言うと、お婆ちゃんが驚いた表情を見せる。そして、コチラに視線を向けて来た。
俺は急いで頭を下げて見せる。
「あの、迷惑だったら断ってくれても大丈夫ですので!! け、決して、無理に気を使わなくても大丈夫ですから!!」
「もあもあ~」
マシマロも俺に習ったのか、頭を下げた様にも見えた。
そんな俺達の様子を、お婆ちゃんが呆れた様な眼差しで眺めている。
お婆ちゃんは灰色の髪の毛を後ろで結っており、服装はお爺ちゃんと同じ様な作業着用のエプロンを着ている。多分、作業着か何かなんだろう。
「アンタねぇ。腹減ってんだろ? なら、遠慮しないで喰ってきゃ良いんだよ。ウチはね、野菜だけは売る程あるんだ、遠慮することはないよ!」
そう言うとお婆ちゃんは、俺の肩をバシッと叩くと気持ちの良い笑顔をコチラに見せた。まるで太陽の様な気持ちの良い笑顔だ。見ると、すぐ隣にいた御老人も同じ様な笑顔をこちらに向けている。
二人の笑顔に思わず救われた様な気持ちになる。
その瞬間、自分がまたもや涙を流している事に気が付いた。
「あれ? な、なんで?」
予期する事のなかった出来事に思わず疑問の声が漏れる。
自分の事の癖に全く理解が出来ない。その間も涙が止まらない。次から次へと、涙が溢れてくる。
「ど、どうしたんだい、アンタ!? なんで泣いてるんだい?」
「おいおい、泣くなって言っただろう? さっきから、なに泣いてるんだよ?」
二人は不思議そうな顔でコチラを眺めている。
無理もない話だ、なんなら俺も不思議で仕方ない。なんでだろう。今まで訳のわからない事ばっかりで不安だらけで怖い目にもあった。だけど、不思議とここまで豪快に涙は出なかった。
それなのに……
それなのに、二人の優しさが堪らなく嬉しいからなのか。自分の感情の抑えが全く効かない。先程とは違い全く抑えが効かない。
「ご、ごめんなさい! えぐッ! ふ、二人の優しさが嬉しくって! そ、それに、最近色々あ゛って! 突然驚かせて、す゛い゛ませ゛ん。でも本当にありがとうございます。この恩は絶対に忘れま゛せ゛ん。農園の手伝いでもなんでもやります、やらせてください! せ゛めて、お、お手伝いだけでも゛ぉ!!」
駄目だ、我ながらなに言ってるかさっぱりだ。完全に感情失禁してしまっている。
もう、完全に止まらなくなっている。もう涙も止まらないし、まともに声も発せれない。感情の歯止めが効かない。
既に俺の口から発せられるのは、声にも成らない嗚咽の様な物だけだった。
「ああ、可愛そうにね。きっと、大変な目に遭ったんだね。大丈夫だよ。ここにアンタに酷いことをする奴は居ないよ。はら、よしよし」
そう言うと御婦人はゆっくりと俺を抱き寄せると優しく頭を撫で付けた。
どこの誰かも知らない人の筈なのに、心がとても安らぐ。
俺はその安らぎに身を任せ、ほんの少し、ほんの少しの間だけ涙を流した。