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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第7話 一角獣~unicorn~
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第七十八頁 処女か非処女か

 森の木々達が揺れんばかりの怒号が辺りに響く。

 これはユヅキさんの声です。私があんぽんたんな事を口にしたのでお冠な御様子です。まあ、間違いなく私が悪い。


「どう言うことだ、お前は!? 自分が処女か処女じゃないのかもわからんのか!?」

「ひぃ、ごめんなさいぃ!!」


 彼の怒号に思わず身体を震わせてしまう。

 見ると、ユニコーンの方までは届いていないらしく、彼等は呑気に地面から伸びる草を齧っている。


「もういい。君は見たところ処女だ。もうそう仮定して話を進めよう。最終的な判断はユニコーン本人に任せることにしよう。もし駄目だったら君は自分で自分の身を全力で守るんだぞ!」


 そう言うとユヅキさんが鼻先で私の腰をツンツンとつついて来た。怒られてはいるけど彼の仕草が可愛らしくて緊張の糸がほぐれてしまう。

 いけない、いけないぞ私。今は怒られたばっかりなんだ、しっかりしろ私……


「ご、ごめんなさい。自分のことなに一つわからない役立たずで……」

「いやいいさ。君にも色々事情があるだろう。それより、速く肩を着けてしまおう。奴等が何処かへ行ってしまう前に……」


 そう言うとユヅキさんは勢い良く駆け出すと森の中に姿を消してしまった。

 あれ? もしかして、こ、これぶっつけ本番なの? と言うより…… 

 私はふと疑問に思ったことを口に出した。


「ユニコーンが去ったら“魅了”も解けるのでは?」

「彼等幻獣の“魅了”は一際強い。魅了は解けず心を奪われた廃人になってしまう。だから速く肩を着けてしまおう!」


 どこからか声が響き渡り私の疑問に答えてくれた。


「うぅ…… なるほど、そうですか……」


 な、ならやるしかない。皆を助けなければ……

 私は意を決してユニコーンに向かって足を踏み出した。


 はあ、どうも~ 

 た、たぶん処女ですよ~ 

 な、仲良くてねぇ~


 中身は男ですけどね……


 そんなことを思いながら重い足を一歩また一歩と踏み出してユニコーンへと近付いて行く。果たして、私は処女なんでしょうか……

 中身は男なんですが処女と言う定義が当てはまるのでしょうか……


「あ……」


 見るとユニコーンが真っ直ぐこちらを見据えている。

 まるで吸い込まれそうな漆黒の眼に私の姿が写っている。馬特有の可愛らしくつぶらな瞳だ。

 そんなユニコーンの様子を眺めていると彼は一歩踏み出してこちらに近付いて来た。


 そしてまた一歩…… 

 さらにまた一歩とこちらに近付いてきた……


 この度に彼の全貌が確かになっていく。

 思ったよりまつ毛が長いのね……


 あと思ったよりデカい。

 黒王号くらいありそう……


 あと角も凄く立派。

 ふ、太くて長い。

 間違いなくアレで貫かれたら私は死んでしまう……


 思わず冷や汗が垂れる。

 私は何か有った時の為に本を開く。


 そんな私の様子を見ても彼は変わらない様子でこちらを眺めている。そして、更に一歩また一歩と歩を進め。遂に彼が目の前に立ち塞がった。

 やっぱり大きい。黒王号とか松風ぐらいある。それに“彼”の力強い息使いが聞こえてくる。

 て言うか私の髪の毛に息がバッチリ掛かっている。


 す、凄い力強い鼻息ですね。


 そんなことを思いながら彼を見上げる。すると、その顔がのそりとこちらに向かって伸びてきた。

 そして、次はその鼻先が私の頬っぺたりと触れた。それと同時に私の匂いを嗅いでいるのか鼻がヒクヒクと動くのがわかる。


 こ、これは許されたのかしら?


 すると彼は頬擦りするかのように私の顔に頬を擦り付けてきた。私も取り敢えずそれに答えるように彼の首元を撫でてみる。

 それが嬉しかったのか彼は私の足元に座るとそのまま地面には倒れ込んだ。

 そして「こっちに来て来て」と言った感じで足をバタつかせている。


「よ、よしよし。いいこいいこ……」


 取り敢えずお腹を擦ってみる。

 すると彼は嬉しそうに鼻息を荒くして足をバタつかせている。


 どうやら、私は処女と認定されたらしい中身は男なのに……


 全然敵意も感じない。神秘性も糞もない。もはや角のはえたデッカイ馬だ……


 しかし、ザックさんの方を見ると未だに正体を失った瞳でこちらを眺めている。どうやらこの状態を見ても“魅了”は解除されないらしい。

 そう言えば私はなんで“魅了”が効かないのかな?


 そんなことを思っていると彼の顔が私の胸元にもたれ掛かってきた。そして、心地よさそうに私の胸元に顔をうずめてみせた。


 な、なんてスケベな子なんでしょう。

 ま、まあ。この際仕方ないか……


 取り敢えず彼の頭を優しく撫で付けることにした。


「よしよし。いいこいいこ」


 こうやって見ると本当にただの可愛くて大きいお馬さんだ。そんなことを思いながらも、彼を胸に抱きながらよしよししてあげる。


 時にはポンポンと優しく叩いたり、優しく撫で付けたりとしてみる。そして、そうすること数分が立つと彼の瞳が徐々にうつらうつらとしだし最終的にはその瞳を閉じてしまった……


「あらら、寝ちゃったのね……」


 と、その瞬間。


 黒い影が一瞬で目の前を通り抜けていった。そして、それからワンテンポ遅れるかの様に大量の血飛沫が宙を舞った……

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