第七十三頁 取り敢えず入学?
既に日は暮れており。暗くなった学園の廊下には蝋燭の灯りが灯っていた。
ゆらりゆらりと揺れる暖色の灯りが私とグレイス先生の影を揺らしている。その暖かい灯りを視野にいれると同時に緊張の糸が揺れ動き、音を立てて切れるのが自分でもわかった。
「はあ……」
俺は思わず溜め息を吐いてしまった。
なんだか、どっと疲れてしまった。
今日はオーク先生には試験で苦労させられたし、学長も中々に厄介そうな感じの人と言うか、エルフだった。
それに最後の最後にグレイス先生の天然純情ロマンンティカバズーカをくらっちまった。
不覚にもドキドキしちまった。
それに、いつの間にかに精神が乙女になってた。
て言うか、なんなの? この精神は、どんだけ揺れ動いてるの?
乙女心ぐらい、揺れ動いてるじゃん……
「はあ……」
その時、俺の隣を歩いていたグレイス先生が深い溜め息を吐いた。
そう言えば、彼も彼で災難だったろうな。乙女モードになっていた俺にからかわれて顔真っ赤にしてたし。学長にはイタズラされてたし。それに、オーク先生とはガッチガチに舌戦を繰り広げていたし。
この人も中々、大変そうだな……
思わず哀れみの視線を投げ掛けてしまいそうになる。
まあ、俺としては最初の目標である入学を果たせたから良いが、グレイス先生は厄介な生徒が入って来たと頭を抱えている事だろう。やっぱり、災難なお人だ。頑張れ、グレイス先生……
あ、そう言えば……
「あの、グレイス先生。学費とかってどれくらいかかるんですか?」
俺は兼ねてから頭の片隅にあった疑問を投げ掛けてみた。
すると、グレイス先生は何故だか呆気に取られた様な表示を浮かべるとおもむろに口を開いた。
「ご存じなかったのですか? オークレイ教授の試験は特待生試験だったんですよ。貴方はそれに受かったんで学費は免除となります?」
「はえ?」
ご存じなかったですけど、それなら先に言ってくれませんか!?
「ええ!? なら、あの試験は受ける必要な無かったんですか?」
「いえ、みんな受けさせられますよ」
さも当たり前と言った感じでグレイス先生が答える。
その答えに俺は思わず頭を抱えてしまう。
い、一体どういうことだってばよ。もう、まったく意味がわからないてっばよ。
「まあ、学園の講師達の実力を見せ付ける為の物ですよ。まあ、端的に言うと『嘗めるなよ』と言う為の試験なんですよ」
「えぇ~ そんな~」
前言撤回、グレイス先生もグレイス先生でとんでもない人だ。今日一番厄日だったのは俺じゃん、目茶苦茶、振り回されたんですけど……
「はあ、なら頑張ってお金を貯めたのも無駄だったってことですか……」
「それは無駄にはなりませんよ。貴方が好きに使えば良いじゃないですか」
グレイス先生は簡単にそう言ってみせるが、そう簡単な話じゃない。ぶっちゃけ、欲しい物とかない。
スマホとか、お風呂とか、服とか、旨い肉とかは欲しいっちゃ、欲しいけど。それはあくまで、俺のいた世界の物を基準にを考えた場合の話で、この世界の物はあんまり欲しくはない。
スマホとかもちろん無いし。お風呂とかも無い。服も“童貞殺し”が一番可愛いし。メシは基本不味いし。
はあ……
シーナさんの作ってくれたシチューが恋しいよ……
全く、こんな世界で一体何にお金を使へと言うのだろうか……
まあ、その内入り用になるだろうから貯めとけばいいけどな……
なんか、釈然としないよね……
俺の煮え切らない様子を見ていたであろう、グレイス先生が不思議そうに語りかけてきた。
「失礼ですが。アイラさんはどうやって資金を用意したのですか?」
「え? ああ…… 私は冒険者でして、色々と依頼をこなしてお金を貯めました」
俺が何食わぬ顔でそう答えると、グレイス先生は驚いた顔を浮べた。
なんだ、俺は変なこと言ったか?
「これは驚きました。殆どの生徒は親から出資して貰っているのに……」
「へえ…… 親御さんがお金持ちの方が多いんですね」
そう何気無く答えると、グレイス先生も何気無く「ええ、殆どの生徒が貴族や名家の出ですからね」と口にした。
え? なにそれ、ズルじゃん。チートじゃん。
て言うか、それ……
俺がハブられたり、イジメられたりするフラグじゃん。まあ、それは流石に自意識過剰か。本当に偉い奴って、庶民のことは眼中にないからな。イジメとかもしないだろう……
ああ、そう言えば、ザックさんやユヅキさんにも入学出来たって報告しないと……
どうなんだろ、この学園は外出とか門限とかあるのかな……
いや、もういいや。
今日は疲れたから、寮室に戻って寝よう。
そんで、明日になったら色々聞いてみよう。
はあ、なんか。色々と問題が出てきそうな気がする。厄介事のフラグがビンビンに立ってる気配がする。
まあ、それでもやるしかないんですけどね……
自分が何者なのか。俺の力はどんなものなのか。この学園で絶対に突き止めて見せるぞ。




