第七十一頁 学長
「ここが学長室になります。くれぐれも失礼のない様に……」
グレイス先生がそう口にすると、一際大きいドアをノックした。
「グレイス・エルベタリアです。新入生アイラを連れて来ました」
「……入るがよい」
しばしの沈黙の後。扉の向こうから鈴の音の様な、透き通る聞き心地の良い声が聞こえて来た。
俺は自分の予想とは裏腹に、少女の様な声が聞こえてきたのに思わず驚いてしまった。
学長とか言うからには、重々しくしわがれた様な老人の声が聞こえくる物と思っていた……
「失礼します……」
そう言うとグレイス先生が大きな扉をゆっくりと開けてみせた。俺は彼の後ろから部屋の中を覗き込むと、更に衝撃を受けた。
そこにいたのは、息をするのも忘れる程の絶世の美少女だったからだ……
透ける様な白い肌に蒼玉を思わせる程の美しく大きな瞳。そして、サラリと流れる様に揺れる長い髪は、金とも白金ともつかない限りなく色素の薄い金髪をしている。
さらに彼女は純白のワンピースを纏っており、その神秘的な姿に思わず息をするのを忘れてしまう。
そして、極めつけは彼女の尖った耳だ……
俗に言う、エルフ耳と言う奴だろうか……
それに、彼女は長く細い手足をしていて。女性特有のくびれも有り、とってもスレンダーな体型をしている。
しかし、エルフだからかなのか、胸は殆どない。ほのかな流線型を描いてはいるが……
いや、これは失礼だからやめておこう。
「なんて、けしからん身体をしておるのか!! なんだこの乳は!? 牛か何かか!?」
そう言うと、いつの間にか目の前に来ていた少女が俺の胸をいきなり鷲掴みにした。そして、彼女はこれ見よがしに押したり。ぺしぺしと叩きだした。
その目の前で起きている、とんでもない光景に思わず赤面してしまう。
自分の身体なのに、明らかに見てはいけないし、他人に見せてはいけない光景を見てしまっている気がする。
「や、止めてくださいッ!!」
思わず、その手を払いのけ、自分の胸を抱き寄せる。
これもこれで恥ずかしいけど、揉まれるよりはマシだ……
た、たぶん……
そ、それにしても。なんて失礼なんだ、この人は……
「なんじゃ!? おぬし、おぼこか!? そんな男好きしそうな身体の癖にのぉ~ まあ、顔は楚々として身持ちも固そうなじゃからのぉ~ それに、以外と芯も強そうじゃの~ ええのぉ~ 気に入ったぞ!」
そう言うと、彼女はニッコリと笑うとゆっくりと私の胸に向かって手を伸ばしてきた。
しかも、手をワキワキと動かしながら……
普通にゾッとする……
「や、止めてくださいッ!!」
「いいのぉ、いいのぉ。そのウブな反応。愛い奴め……」
そう言うと、彼女がヨダレを垂らしながら、ジリリジリリとコチラに近づいて来た。
その変態の化身かの様な言動に、私は思わず恐怖で再び後ずさってしまった。
やだ、やだよ、この人。
オッサンみたいで怖いよ。
「学長!! お止めください!! 我が学園の品位に関わります!!」
その瞬間、グレイス先生の怒号が響いた。
そして、彼は俺と学長との間に割って入り学長を見下ろすと、侮蔑の表情を投げ掛けた。
そんなグレイス先生の態度に彼女はしかめっ面を浮かべると、苦々しげに口を開いた。
「なんじゃ!? おぬし、わしに逆らうとは珍しいのぉ!? 童貞の癖に!?」
「そ、それは関係無いでしょ!!」
すると、彼女は次の標的をグレイス先生に変えたらしく。小悪魔の様な表情を浮かべると、緩慢とした動作で彼に詰め寄り、ピッタリとくっついてみせた。
それを見ていたグレイス先生の顔が段々と青ざめ、徐々に歪んでいった。
学長は、そんな彼の表情を目を細めながら面白そうに眺めている。不意に学長はその指先ですぅっと、彼の太股を撫でてみせた。
その瞬間、グレイス先生の顔が赤く紅潮した。
そして、彼の視線がゆっくりと私には向けられる。
その視線が私に訴え欠けてくる「助けてくれ」と……
そして、彼の目を見た瞬間、私の身体は勝手に動き出していた……
彼には試験の時も、さっきも助け貰った。
私だって、少しは恩返しをしたい!!
と言う気持ちの元、勝手に身体が動いていた。
「えい!!」
気付いた時には、その掛け声と共に学長を思いっきり押し飛ばしていた。
「ふぎゃッ!!」
意外と言うか、見た目通りと言うか。学長は思ったよりも軽く、私が押し飛ばすとそのままの勢いで後ろにすっ飛んで行ってしまった。
「が、学長……」
グレイス先生が呆れた様な声を漏らすと彼女を見下ろした。私もその視線を追って彼女を見ると……
「あ、あら……」
そこにはワンピースがめくれあがり。パンツがおっぴろげの状態になったエルフの少女がぶっ倒れていた。
て言うか、学長がぶっ倒れていた。
まあ、私が犯人なんですけどね……




