第七十頁 オリエンテーション
「先ずはこちらが食堂になります。王族や貴族の方も利用する為、最高級の食材を用意しております」
そう言うと、グレイス先生がバスガイドさんよろしく、手のひらでこちらの視線を誘導してみせた。
その方向を見ると、幾つもの机と椅子が並べられており。その向こう側には食事を受け取るカウンターの様な物が見える。
それに、ほんのりと甘く香ばしいニオイが辺りを立ち込めている。これは焼き立てのパンの香りだろう。思わず、唾をごくりと飲み込んでしまう。
でも……
「でも、王族とかが食べるって、高そう……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。一般の方用のメニューもありますよ。私達みたいなのの為にね……」
そう言うと彼はこちらに向かってさらに口を開いた。
「さあ、次はこちらへ……」
☆★☆
「ここが寮室になります」
そう言うと彼がある一室の鍵を開け、扉を開いた。
中を覗いて見ると、中身が空の大きな本棚に机。それに洋服ダンスが配置されている。そして、綺麗なベッドも用意されていた。
窓からは王都の景色が見える。
窓ガラスも割れてない。
「ふぁ……」
「ここは二階になりますので景色も中々ですよ」
彼の言った通り窓を覗いて見ると、王都の景色が一面に広がっていた。
在り来たりな表現かもしれないけど、すごく綺麗な景色だ。
空の色は、俺が気絶していたせいか、既に日は暮れかけており、夕日に染まっている。
そして、その夕日が王都に健在する色とりどりの屋根達を黄昏色に染め上げている。そして、建物ひとつひとつからは明かりが漏れ出しており、ほのかな暖色の輝きを放っている。
まるで、王都全体が光輝いているみたいだ……
「すごい……」
この世界に来てよかった、かもしれない。
素直にそう思える程の景色だ。きっと、これから夜になれば、また違った景色が見れるのだろう。そして、朝になれば、また違う景色へと変わっていく。
そうやって、王都の日常が過ぎ去って行くのだろう……
「さあ、これが貴女の部屋の鍵です。くれぐれも、無くさない様にしてくださいね」
そう言うとグレイス先生が一本の鍵を俺に渡してきた。
これは、確か……
そうだ、ウォード錠と言う奴だろう。
持ち手には綺麗な装飾も施されていて威厳がある雰囲気がする。
「はい、ありがとうございます。グレイス先生」
俺がそう言うと、彼は頷いてみせた。そして、おもむろに深い溜め息を吐くと、眉間し皺を寄せ難しい顔をしてみせた。
その様子に思わず身構えてしまう。
な、なんだ?
「さて、今日は次で最後にしましょう。他の施設はおいおい紹介します」
「そうですか、わかりました。それで次はどこなんです?」
俺がそう口にすると、グレイス先生はキッと固く結ぶとこちらを見詰めてきた。その眼差しには僅かな緊張の色がうかがえる。
なんだ、一体なんなんだ?
そんなに、面倒な所にこれから行くのか?
そんなことを思った矢先、グレイスさんがその重い口を開いた。
「次は学長室に行きます」




