第六十六頁 試験開始
オークレイ・エルオディオス。
名前も若干オークみたいだった。
俺はそんな事を頭の隅で思いながらも。オーク先生の事をしっかりと観察してみた。
綺麗な球形を描く結界。
それに彼がすっぽりと収まっている。
あれは恐らく高濃度の魔力。普通なのか、俺がおかしいのかわからないが、魔力はあんな感じで滞留する様なことはない。
まるで水が高い所から低い所へと流れる様に、魔力は濃い所から薄い所へと流れて行く。そして、その濃度は空気中で魔素として一定に保たれる……
それがああ言った形でその場に留まると言うことは、何かしらやってると言うことだ。そして、何かしらやってると言うことは、それが何か意味すると言うこと……
うん? この知識は一体?
もしや、この肉体が元々持っていた知識だろうか?
ならば、好都合だ……
有効に使わせて貰おう……
まず、先程グレイス先生は“魔力防壁”とか言っていた。
恐らくアレがその“魔力防壁”と言う奴だろう。
少し、試してみよう。
俺は手のひらに魔力を集め、火の玉を作る。
そして、それを大きく振りかぶり、結界に向けて投げつけてみせる。
目指せ、100マイル!!
しかし、俺が放り投げた火の玉は、ぽよーんと可愛い放物線を描きながらオーク先生の作った結界へと飛んでいった。
我ながら、呆れてしまう。これじゃあ、到底100マイルには及ばないな。
だが次の瞬間、興味深い現象が起きた。
俺が放り投げた火の玉、それがオーク先生の作った結界に触れる瞬間、まるで水風船が破裂するかの様に弾けて消えたのだ。
先程、魔力は濃い所から薄い所へと言ったが、その性質は火の玉になっても変わらない。魔力は徐々に空気中へと流れて行き、最終的に魔力は空気に混じると、大気中を魔素として漂うことになる。
その一連の流れの中で、火の玉は徐々に空気中に溶けるかの様に消えていく。
しかし、今のはなんだか様子が違った。
言うならば、弾けて消えたみたいだった……
「なんだ今のは、ふざけているのか?」
そんな俺の疑問を他所に、彼が馬鹿にした様子でそう口にした。
すると、ギャラリーで一連の様子を見ていた生徒達がクスクスと小さな笑い声を上げた。
勿論、俺の耳にも届いて来た。
俺の綺麗な放物線を描くピッチングに対してか。火の玉の魔術に対してか。それとも、その両方に対してか。それはわからないが、今のは鼻で笑っちゃう感じのレベルらしい……
まあ、それは良しとして。
成る程、これは中々面白いじゃないか……
俺は再び手のひらに魔力を集めて火の玉を作り出す。
「ふん、何度やっても結果は変わらんぞ!」
そう言うオーク先生を他所に、俺は火の玉に魔力を注ぎ込む。まるで、焚き火に枯れ木を投げ入れる様に魔力を次々に注ぎ込んで行く。
それにともなって火の玉は面白いくらい、その大きさを増していく。
そして、火の玉が人一人を飲み込むくらいの大きさになった辺りでそれを彼に向けて投げつけてみせた。
やはりと言うか、なんと言うか、火の玉はボヨーンと放物線を描きながは彼が作った結界へと飛んでいった。
そして、火の玉が結界に触れた瞬間。
火の玉がグニャリとゴムボールの様に歪むと、先程の様に弾け飛び辺りに熱風を撒き散らした。
「ふむ、魔力量は中々だな。悪くない……」
その熱風の中から涼しげな顔で彼が呟いた。
なるほど、これが“魔力防壁”ですか……
 




