第六十三頁 いざ試験へ
学園は外見も大層ご立派だったが、内装も負けずを劣らずといった感じだ。下手な宮殿や教会なんかよりも立派な作りをしている。
まあ、宮殿にも教会にも行ったことないけど……
まあ、先ずは屋根が高いし、窓ガラスはデカイ。
巨人族でも要るのかってくらいデカイ。
廊下もだだっ広い、東京駅の広い通路くらいある。
そんな、下らないことを考えていると不意に彼が話し掛けてきた。
「ところで、貴女はどれ程、魔術に精通しているのですか?」
そう聞かれて、思わず首を傾げてしまう。
どんだけって言われてもな……
召喚術を使えることは隠した方が良いっぽいし。かと言って魔術を知ってるか、精通してるか? と言われると、そんなに精通してはいない。
て言うか、これから勉強する為に学園に来たのに「どれだけ精通してる?」とか聞かれても困るんですけど。
まあ、取りあえず……
俺は手の平に魔力を集めて火の玉を作って見せた。
まさに、昨日覚えた奴だ。ユヅキさんとの一夜漬けの結晶である。
「取りあえずはこんな感じです?」
「成る程、基礎の基礎は一応理解している。と言うところですね」
彼のその言葉にウンウンと頷いてみせる。
そんな俺の様子を見ると彼はほんの少し微笑んだ。
あら、そんな感じの表情も出来るのね、意外ですわ。
笑った顔の方が素敵ですのに……
そんなことを思って眺めていると、彼は直ぐに顔を先程までの顔に戻すと、おもむろに口を開いた。
「ところで、貴女の名前は?」
「あぁ…… 名前ですか……」
ううむ…… これって素直にアイラインって言った方が良いのかな?
その時、不意に初めて見た彼女の肖像画が頭を過った。
そう言えば、この世界の歴史がどういう物かはわからないけど。肖像画は偉い人が初めに描かれ始めた。みたいなのを聞いたことがあるな……
となると、アイラインさんって有名人とか、王族とか貴族とかだったのかもしれないな……
となると、あんまり気軽にアイラインって名乗んない方が良いのかもしれない。今までは地方だったから、どうにでもなっただけで、王都となると話は変わってくるかもしれない……
これで取り越し苦労とかだったら爆笑だけど、もし違った時は笑えない所の話じゃないな。
自分の正体がわかるのは良いけど、最悪の事態だったりしたらヤバイからな。
どうするよ、亡国の姫とかだったら……
超絶、面倒臭い事になるでしょ……
うん、絶対面倒臭い事になるな……
決めた! 自らの手で自分の正体を知るまでは、出来る限りアイラインって名前は伏せよう。これからは正式にアイラと名乗って行こう。
うん、そうしよう。なんか、嫌な予感がするし。
まあ、この嫌な予感が気のせいなら、気のせいで、爆笑して終わればいいさ!
俺はそう決めると、訝しげな様子でこちらを眺めている彼に向かって、口を開いた。
「私の名前はアイラって言います」
そう言って「へッへッへッ」と笑って誤魔化してみせた。
 




