第六十一頁 夜の狼
おやすみなさい。
……とは言ったもののドキドキして全く眠れない。これではまるでユヅキさんを意識しているみたいではないか?
それに、今になって冷静に考えると俺はいつユヅキをユヅキさんて呼ぶようになったんだ?
最初はユヅキって読んでたような、はて?
もう、色々と心の中の整理が付かない。心の中の整理が付かないし、整理しようと思えば思う程落ち着かない。
「くぅ…… くぅ……」
見てよ、この寝息。
これ俺の寝息だよ。
恥ずかしいことに可愛い子ぶってんのよ。
なにそれ、意味わかんないんですけど……
かと言ってここで「ズゴゴ!! ズビィィィ!!」みたいな寝息を立てられる訳もなく、可愛い子ぶった寝息を立ててしまう。
なんなら、本当に寝た時にどんな寝息を立ててるんだろ? マジで「ズビィィィ!!」とかだったらどうしよう。寝相とかも悪かったらどうしよう……
そして、そんなことを気にしている俺は一体?
て言うか、この世界に来てから初めてなんじゃないか、と思えるくらい寝付きが悪い。
それに寒い……
せっかく、ユヅキさんが毛布の代わりになってくれてるのに、当の俺は恥ずかしくて彼とは距離を取ってしまっている。「くぅ…… くぅ……」とか言っている場合ではない。このままでは風邪を引いてしまう……
なんなら、朝になったら冷たくなって死んでるかも……
ど、どうしよぉ……
その時、不意に柔くてフワフワした感触が俺を包み込んだ。
わかる。
これはユヅキさんの毛だ。とてもフワフワしてて、ツヤツヤとした感触がする。それにほんのりと彼の香りもする。なんでか、干したての布団の香りがする。
すごく心地いい……
なんで、こんな良い香りがするのだろうか……
それに、彼の力強く安定した鼓動が聞こえてくる。なんだか、とても暖かくて安心する。
本当にこの人は強いんだな、それに女の子である俺と同じベッドにいて全く下心を感じない。誠実な優しさを感じる。
でも、それが少し残念な様な心地良いような……
いや、これ以上考えるのは止めておこう……
おかしくなりそうだ……
それでも彼の心地いふかふかの感触にさそわれて、思わず頬擦りしてしまう。
彼のどこに頬擦りしたのか、それはわからないがとてもふかふかで気持ちがいい。多分、この世界で一等上質な布団だ……
ああ、なんて気持ちが良いんだろう……
なんと言うか、酷く心地が良い……
なんだか、だんだん眠く……
眠くなって来た……
☆★☆数時間後☆★☆
「くぅ…… くぅ……」
部屋の中で少女の可愛らしい寝息が小さく響く。
その少女を守るかの様に大きな狼が傍らについている。
「やっと、寝たか…… まったく、いらん気づかいをする御主人様だな……」
不意に狼が言葉を漏らした。その姿は満更でもないのか、少し笑っているかの様にも見える。
そして、彼のその言葉に答えるかの様に、少女の可愛らしい寝息が部屋に響いたのだった。
かくして、夜は過ぎていったのだった……




