第五十九頁 ギルド『王の杖』
「どうぞ、こちらがギルド『王の杖』になりますぅ~」
少女はそう言うと身体全体でギルドの内装をこちらに紹介して見せてくれた。
しかし、外面も廃墟なら、中も負けずを劣らずと言った感じだった。
床板が腐っているのか色が変わっていたり。即興で手直ししたからなのか、全く違う材質の木材で補強してたりしている。
それに壁には外から入り込んだ蔦が所々に見えている……
なんと言うか……
う、うん……
とってもステキだね……
「それと、こちらが客室になっております。皆様はこちらをお使いくださいぃ~」
そう言うと、少女は扉の前へと歩き。ドアノブに手を掛け、扉を開けようとする……
……するが。扉はウンともスンとも言わず、微動だにしなかった。まるで少女がパントマイムでもしているかの様だ。
もはや、ここまで来るとオラ、逆にワクワクして来たぞ!!
「ふぐッ!! ふぐ、ふぐぐ!! セェイッ!!」
少女の掛け声と共に扉が開くと、向こうから小さな部屋が顔を覗かせた。
一体どんな部屋が現れるのかと思ったが、そこは案外普通で小さなベッドと、机があるだけの簡素な部屋がそこにはあった。
まあ、窓ガラスは割れてたんですけど……
「はぁ、はぁ、はぁ…… こちらが客室になります。お三方にはこの部屋を一つずつ使って頂こうと思っております」
「ああ、よかった。てっきり、俺はこの部屋に三人で泊まるのかと思ったぜ……」
ザックさんがそう言うと安心したように微笑んでみせた。
正直、俺もそうなんじゃないかと思って戦々恐々としてた。
そうではないよだったので、取り敢えずひと安心した。
それにしても、なんでこのギルドはこんなにボロボロなんだ? もしかして、俺達は狐とかに化かされているのか?
朝起きたら、何にも無い荒野で大の字で寝てたとかないよね?
「あの…… ところでこのギルドはなんでこんなボロボロなんですか?」
ロランさんが聞きたくてしょうがないと言った様子で少女に問い掛けた。多分、誰しもそれを聞きたくてしょうがなかったと思う。
見ると、ザックさんも「そりゃまあね……」と言った感じで苦笑いを浮かべている。
普通に考えるとザックさんの方がいの一番に「どういうこった?」とか言って聞きそうなもんだけど。この人はこの人で変な所で忍耐力がある。
器がデカいのか、細かい事を気にしてないのか知らないが、これがリーダーの器なのだろうか?
そんなことを思っていると、少女はおもむろにその重い口を開いた。
そして、その口から衝撃の事実が……
「うちのギルド。まともな冒険者が一人も居ないんですぅ。だから、金欠で補修もままならないんですぅ~」
全然、衝撃の事実でもなんでもなかった。
普通にしょうもない事実だった。
◇◆◇
ギルド「王の杖」
それは設立当初は魔術学園を満期退学、或いは休学した者。そして、宮廷魔術師を目指す者達が主として立ち上げられたギルド。
で、あるらしい。
王都デュランは王宮の存在により、戦士の殆どは騎士となる道を選ぶ。腕に覚えのある戦士ならば尚更の話である。
とどのつまり、このギルドを立ち上げた冒険者とは魔術学園で満足いく成果を残せなかった者、宮廷魔術師になれなかった者、騎士になれなかった者が立ち上げたギルドと言うことだ……
「一言で言うと二流、あるいは三流達が集まっているギルドと言う事なんですぅ」
少女がそう言うと、溜め息混じりに肩を落とした。そして、おもむろに受付の方へと向かって行った。
その様子から見て、彼女がこのギルドの受付嬢であるらしい。アト・クラフトの受付嬢と比べると余りにも質素で素朴な感じだ。なんと言うか、華やかさには欠けている様に見えてしまう。
言ってしまうと、ただの町娘と言った感じだ……
ただ、彼女自体はとても顔立ちも整っており、態度も誠実そうで、非常に人好きしそうな雰囲気はしている。素朴な可愛らしさがある。
そんな事を思っていると、隣にいたザックさんが彼女に向かって素っ気なく言って見せた。
「言っちゃなんだが、そんなのどこのギルドもそんなもんだぞ。上澄み以外は行儀の良い荒くれ者って所だぞ……」
確かにそうだ、正直な話「草原の狩人」も酔っ払いとモラルの欠片もないオッサンが大半を占めてた。積極的に難易度の高い依頼や危険度の高い依頼をこなしていた冒険者の方が少なかった気がする。
ただ、それはアト・クラフトの街だからどうにかっていただけの話だ。王都で、その体たらくでは話にならないだろう。
そう、何故なら……
俺がそんな事を考えていると、俺の考えをロランさんが言語化し言葉にしてくれた。
「なるほど。となると、おおよその仕事は騎士や学園の魔術師達が解決してしまいますね。だから、ギルドには仕事が回ってこない。だから、ここまでギルドが寂れたって所ですか?」
うん、全くもって、俺の推測と同じだ……
もし、騎士達の手に余る魔物が出たとして、助けを求めるのは少なくともギルドの冒険者ではない。間違いなく、初めに白羽の矢が立つのは学園の魔術師だろう。
そして、その逆も然りだ……
まあ、簡単に言うと産業に入り込む隙間が無いのだ。しかも、競合他社の方が財力も人材も圧倒的に豊富。
こんな状況でギルドを運営するなんて難しいに決まってる。廃れるのも無理はない。
それこそ、英雄でも現れれば話しは違うだろうが。そんなのが現れたら王宮が放っておかないだろう。直ぐに引き抜かれてしまう。
「そうなんですぅ。それでも初めは頑張っていたらしいですけど。一人、また一人と冒険者は引退したり、他所に行ったりで、今は殆ど活動も出来なくなってしまったしだいですぅ」
そんな言葉を聞かされて、俺は「なるほど、ですぅ」と思わず頷いてしまう。
そんな俺達の様子を他所に、彼女は突如として握り拳を作ると、それを天高く掲げてみせた。
「ですが、お三方が居れば!! こんな状況も打破出来るやもしれません!! このアリッサ、不肖ながら出来る限りの援助をさせて貰いますぅ!! 皆で頑張って行きましょうねぇ!!」
そう言うと彼女はこちらに向かって屈託の無い笑みを投げ掛けてきた。あら、可愛らしいですぅ……
まあ、なんと言う、元気ッ娘だろうか。俺は学園に行くつもりなんだけど、どうすりゃいいのだろうか……
取り敢えず、今日はもう休んでもいいかしら?




