第五十六頁 王都へ
鬱蒼と繁った森を抜けると、そこにはすでに王都の姿が見えていた。
まだ少しばかり遠くにあるが、それでも理解出来る程に大きな城壁が見える。
そして、その城壁の向こうからは、大きく高い建造物の先端が幾つか顔を出している。
もちろん、その中央付近には王都の象徴と思われる城が見える。
偉そうに、こちらを高い所から見下ろしておりますよ。きっと、それはそれは偉い人達がいるんでしょうね、王様とかね……
まあ、一生会う事はないでしょう。
俺はそんなことを考えると、無言のまま王都に向けて歩き出した。
「いや、なんか無いのかよ!!」
俺の反応が余りにも薄かったのか、ザックさんがこちらに向かってツッコミを入れてきた。
いや、ぶっちゃけると……
「疲れたんで、もう休みたいんですよね……」
だって、今日もほぼ一日歩きっぱなしだったんだもん。疲れるに決まってるじゃん。まあ、夜はぐっすり眠っちゃったから元気一杯だけど、流石に一日歩いたら疲れちゃうよ。
もう、太陽も鮮やかなオレンジ色に変わり始めてるよ……
「疲れたって、アイラ。お前なぁ……」
そう言うと、ザックさんは呆れた様子で俺を眺めた。
だけど、実際のところ、何かワクワクしない。何故かわからないけど、なんか心の中で引っ掛かる物がある。なんでだろうか……
「何か思うところが有るのか、アイラ?」
そう言ったのは俺の隣を歩いていたユヅキさんだった。
ユヅキさんは昨日のワイバーン襲撃以降、俺達と行動を共にしてくれている。
勿論、狼の姿のままだ。
ユヅキさんは、ザックさん達に面が割れてる的なこと言ってたから、狼の姿じゃないと一緒にいられないんだろう。
ユヅキさんはユヅキさんで、俺がアト・クラフトの街に行く前はスラムでどんなことしてたんだ?
まあ、それはいつか話してくれると嬉しいな程度で留めておこう。誰しも、ほじくられたくない過去があるもんですよ。
う~むそれにして、何でだろう?
城に王都、ファンタジーの代名詞が並んでいるのに何故かワクワクしないな。
何でだろう、俺は学校行きたく無いのかな?
いや、むしろ行きたい。そこら辺はワクワクしてる。だけど、なんだろう。
あの城を見てると、心の奥で何かがざわつく様な、そんな感じがする。
これは、恐怖? それとも、不安? なんだろう、何故かしっくり来る表現が思い浮かばない。
もしかして、このアイラインと言う少女の肉体と何かしらの因縁が有って、訴えかけてきてるのだろうか……
思わず、頭を抱えてしまう。なんだか頭も痛くなって来た気がする。でも、なんか……
なんか、出てきそう……
少なくとも、この王都……
いや、あの城から目を背けてはいけない様な……
なんか、あるような……
「おい、アイラ。何か有るんだったら、無理すんな」
そう言うと、ザックさんが俺の肩に手を添えると、心配そうにこちらを除き込んで来てくれた。
その眼差しにふと我に帰った。
なんでかよくわからないが、俺の気持ちを理解してくれているのか、ザックさん俺を鼓舞するような瞳で見つめてくる。
なんだろう、いつの間にかに心が繋がっていただろうか?
「そうですよ。アイラさん、何かあったら、一人で抱え込まずに僕達に話してくださいね!」
そう言うとロランさんが可愛らしい笑顔をこちらに向けてきてくれた。
なんだろうか、いつの間にかに二人と心が繋がっていただろうか。よくわからないが、二人共まるで俺の不安を理解している様な振る舞だ。
本当にありがたい限りだ……
俺は本当に運が良かったんだな。こんな、いい仲間に恵まれて……
そうだ……
そうだよな……
何かあったら、この二人に助けを求めればいい。それにユヅキさんだって、昨日のワイバーンの時みたいに助けに来てくれるはずだ。
そうだ、不安がない訳じゃない。でも、それは誰しも等しく同じ事だ……
だけど、俺には心強い仲間がいる。
彼等がいれば、きっと険しい困難だって、乗り越えて行けるはずだ。
俺は三人に視線を向けると目一杯の笑顔をしてみせた。
どうだ、可愛い女の子の笑顔だ喰らいやがれ。
皆、本当にありがとうね……
「ありがとうございます。皆が居てくれれば、きっと大丈夫です」
そうだ、俺は今を生きているんだ。今を生きて、未来に進む為に生きてる。
そして、先行く未来を笑って向かえる為に、今をがむしゃらに生きてる。
どんな不安だって越えて見せる。
未来を笑って向かえるために……
そう決意を胸に俺は王都に向かって歩き出した。
過去の私は見ているだろうか。
少なくとも、今の俺は貴女のお陰で笑って歩けていますよ。




