第四十九頁 冒険者アイラ
酷い雨と共に雷鳴が轟き、外套越しからも頬には雨粒が打ち付ける。
俺は鬱陶しい雨だと思いながら、頬についた雫を払った。
ここはアト・クラフト近辺の草原。この地域は雨季になると豪雨の季節が訪れると共に、厄介な魔獣が文字通り顔を出すらしい。
「アイラ。アレだ、見えるか?」
隣にいたザックさんが遠くの方を指差しながら、そう呟いた。
彼も俺と同じく雨を凌ぐ為の外套を羽織っている。俺はザックさんの指差した方向を見ると、そこには巨大な翡翠色のミミズの様な生物が蠢いた。
よく目を凝らして見ると、その体表には翡翠色の鱗の様な物がビッシリと並んでいる。
なんだろうか、あれは。
見た目はミミズ。体表はトカゲ。俺のいた世界の生物に例えるなら…… そうだな、ミミズトカゲとかに似てる。だけど、口は爬虫類のそれと言うより、ミミズに近いように見える。
「アレが“バイクスワーム”だ。普段は地中にいるんだが雨季になるとウジャウジャと出てくるんだ。小さいのなら問題ないが、デカイのとなると、人なんかも丸飲みにしたりしちまう……」
「なるほど。取り敢えず、見た目は最悪ですね……」
うん。確かにアレは紛うことなき、ワームと呼ぶべき存在だろう。しかも、よく目を凝らすと何匹もが重なって塊になっているのか、訳のわからない感じになっている。
その様は幾つもの頭を持つ大蛇である。
これを見たら、ヤマタノオロチも真っ青だろう。
「よく見れば見る程、最悪ですね……」
思わずそう口を突いてしまう。
俺の後ろで、俺達と同様にワームの様子を見ていたロランさんが苦笑いを浮かべた。
「アレ、一匹で銀貨一枚です」
「す、すごいですね。あれ多分、十匹くらい纏まってますよ。そうなると銀貨十枚くらい貰えるんですか?」
俺の問い掛けにロランさんが大きく頷いて見せた。
なんだか、突然、あの気色悪い生命体が素敵な物に見えてきたぜ……
俺が目の色を変えたの見ると、ザックさんが注意するように口を開いた。
「ただ、下手に刺激すると、あの気色悪いのが一気に襲い掛かってくる。それに巻き込まれたら、まあ、丸飲みだ。やるなら、一気に大部分を始末したい。出来そうか、アイラ?」
「もう少し近付けば大体は出来ると思います。もちろん、取りこぼしは始末してくれるんですよね?」
俺の問い掛けにザックさんが不敵な笑みを浮かべると、背中に背負っていた槍に手を伸ばし、勢いよく構えて見せた。
ロランさんもそれを見ると、弓を取り出し狙いを定めた。
「任せとけって言うことですね」
「おうよ……」
その声と共に、二人がゆっくりとワームの塊に近付いていく。俺は、その二人の後を静かに着いて行く。
近付く度にワームの塊の気色悪さに、寒気が走るのがわかる。
「どうだ、これくらいで行けるか?」
どうだろうか、距離で言うと10メートル有るか無いかと言った所だろうか。あの距離まで俺の召喚術が届くのだろうか……
その時、本から俺に届くか届かないかと言う程の小さな声が響いた。
(出来ますよ、アイラさん。魔力を普段より多く使い、召喚位置を操るのです。そう、例えば、あのワームの上。そこに私を呼び出せば……)
そう言葉を吐くとアイゼンさんは「まあ、後はわかりますね」と口を閉じた。
完璧ですよ、アイゼンお爺ちゃん。
貴方、最高だ……
俺のお爺ちゃんだよ……
「ザックさん、ロランさん。行きますよ」
「おう、何時でも良いぜ」
「ええ、僕も準備万端です」
俺は二人が答えると同時に本に魔力を流し込んだ。
やがて、本から青い光が滲み出るように溢れてくる。俺は更に魔力を込め、ワームの頭上に集中する。
ほのかに、その場所と俺の魔力で繋がったような感覚がする。
(今です、アイラさん!!)
「うん!! お願い、アイゼンさん!!」
その言葉と共に上空から青い光があらわれ、辺りを覆った。
次の瞬間、その光の中から巨大な亀が出現し、それはあっという間に地面に落下すると、辺りに大きな地響きを響かせた。
見ると、巨大な亀はワームもろとも地面にめり込んでおり、大きなクレーターを作り出してしまっていた。
凄まじいぜ、お爺ちゃん。
「おしッ!! 取りこぼしを始末するぞ!!」
「はい!!」
その声と共にザックさんが取りこぼした数匹のワームに向かって駆け出す。そして、その中の一匹に狙いを定めると、凄まじい勢いで槍を繰り出した。
ロランさんも弓を引き、ワームを次から次へと射る。ロランさんの矢に射られ怯んだ所をザックさんが瞬時に斬り込み、ワームを次から次へと地面に薙ぎ倒していく。
そして、あっという間にワームの死骸が地面を埋め尽くした。
ううむ、私も中々に冒険者と言うのが板について来たな。それに、お金も貯まったし。そろそろ、次の目標に向かって進む時か……
俺は一人納得しながら、雨雲で覆われた空を見上げた。
すると、雨雲の切れ間から日の光が差し込み、光の柱が草原へと降り注いだ。
まるで、それを合図にするかの様に雨は止み。雨粒を纏った草原はキラキラと宝石を散りばめたかの様に輝き出した。
「雨が止みましたね……」
【バイクスワーム★★☆】
【体表を細かい鱗で覆われたワームの一種。多くは土の中に棲んでおり。その為か視覚、聴覚が著しく退化している。振動を感知する事で周辺の様子を確認しており、そのせいか雨季になると雨粒が地表を叩く音に反応し、地表を出てくる】




