第四十五頁 魔法使いの狼さん
「よかった、ユヅキさん~ なんか着替えとか持って来てください~」
俺は感激の想いから思わず、その狼に今にも抱き付きそうになってしまった。
「待て待て!! 見える見える!!」
狼はそう言うと、慌てた様子で顔を背けた。
ああ、そうだ。俺は今は女だったんだ。それが突然飛び出したら、それこそ痴女だ。危うい危うい、危うく「野生の痴女が飛び出してきた」見たいな状況になるところだった。
俺は一度冷静になると肩まで水に浸かった。
そして、取り敢えず見えてはいけない箇所を手で被うとユヅキの方に視線を向けた。
彼は未だに明後日の方向を向いている。
なんだか、彼の態度を見ていると自分が本当に痴女になったんじゃないかと思えて来て、恥ずかしくなって来たぞ。
も、もう少し距離を取るか……
俺はおもむろに距離を取ると、遠くの方から彼に向かって声を掛けた。
「ユヅキさ~ん! もう大丈夫ですよ~!!」
俺がそう言うと彼は恐る恐ると言った感じで、こちらに振り返った。
そして、おもむろに辺りを見渡すと、遠くの方にいる俺を見つけたのか、こっちに向かって声を上げて見せた。
「今、火を起こす。あと服も直ぐに乾かすから待ってろ」
その顔は何故か若干、物悲しそうな顔している。
一体、なんなんだ彼は……
て言うか、直ぐに乾かすって、どうするつもりなんだ? 焚き火で服を乾かすつもりなのかな? 煙臭くなっちゃわないかな?
俺が遠目で彼を見ていると、驚きの光景が目に飛び込んだ。
ユヅキは人間の姿に戻ると、その手から赤々と光る物体が浮かび上がったのだ。
俺はその物体が何かを確かめようと、少し距離を詰めてみる。
なんだろう、あれは、まるで火の玉を持っている様に見える。
不意にユヅキはそれを地面に投げ入れる様な動作をすると同時に、その地面から炎柱が上がった。
「ええ! い、今のなんですか? 魔法ですか!?」
「お前ッ!! いつの間にこんな近くまで来てんだ!! 馬鹿野郎!! 年頃の女の癖に恥じらいってもんがねぇのか!?」
思わず近づいてしまっていたが、そんな俺に度肝う抜かれたのか、ユヅキが顔を真っ赤にしながら、手で顔を覆っている。
い、以外とウブなんですね……
「い、いや! そんなことより、今の魔法ですか!? 凄くないですか!?」
「凄くねぇ、凄くねぇ!! うるせぇうるせぇ!! さっさっと、あっち行け!!」
いや、待ってって。そんなに汚ない物みたいな、扱いしないでって。普通に落ち込むんだけど。
もしかして、俺の事嫌いなのか?
やっぱり、突然、スラムに殴り込んできて、事情もよく知らねぇのに上から目線で能書き垂れる様な奴は嫌いなのだろうか……
「もしかして…… 私の事、嫌いなんですか?」
「い、いや。そう言う訳じゃねけどよ……」
じゃあ、なんで……
「あーー!! もうわかった、頼むから、責めてなんか着てくれ、目のやり場に困るんだよ!!」
そう言うと、ユヅキさんは自分の着ていた服を凄い勢いで脱ぐとこちらに投げて寄越して来た。
最初は「はて? この男は何をしているんだ?」と思ったが、直ぐにハッとした……
ああ、そっか。
また普通に忘れてたは、自分が裸なの……
それと、女の子なのを……




