第三頁 お着替え★
何がどうなっているのか、それは未だに全くわからない。
だけど、俺は肖像画の少女アイラインになってしまった。それだけは確かなようだ。
恐らくと言うか、まあ、あれだ……
異世界転移と言う奴だろう……
しかも、憑依するタイプの奴だ……
これに関しては、正解不正解を確かめる方法もくそもない。どうしようもない。もう見たまんま感じるしかない……
そして、この本が何故白紙なのか。さらに、なぜ下着がスケスケのしかも黒なのか、その謎は未だにわからない。わからないと言うか、この謎は多分迷宮入りする。
だが、少しだけ状況を理解する足掛かりは手に入れることが出来たと思う。うん、これは出来たと言っていいだろう。そして……
俺はゆっくりと傍らに置いてあった服とスケスケパンティに視線を移す。しかも黒ね……
そう、恐らくこの“童貞殺し”は俺が着ていいと奴だと思う。だが、これを着ると言うことは俺は俺ではなくなりアイラインと言う少女に成り代わる事を意味する。
それが大いなる意思によるものか。それとも白骨化した遺体の意思によるものか。あるいは俺が変態なだけか……
もう意味わかんないが「なんとかなれ~」の精神で行くしかあるまい。もう俺が変態でいい!!
俺は男を辞めるぞ!!
ババーン!!
『パンティ(黒)とブラジャー(黒)を装備しました』
『“童貞殺し”を装備しました』
『革のブーツを装備しました』
『眼鏡はスカートのポッケにしまいました』
はあ、終わったよ男としてな……
だが、これでどこからどうみても肖像画に描かれていた“アイライン”その物になった。それにスッポンポン問題も解決した。
それに何よりかなり快適だ。やはり服と言うのは素晴らしい。あの産まれたままの姿で歩くなんて真っ平御免だ。
どちらかと言うと下着がスケスケの方がちょっとした問題だったりする。まあ、スケスケ以外無いので今は諦めるしかないけど……
俺は思わず白骨遺体を眺める。最初はこの骨に畏怖に似た謎の恐怖を覚えていたが段々と意味がわからなくなってきた。
まったく、謎は深まるばかりだ……
しかし、それでも前に進まなければならない。
やはり洞窟探検を続けてみるしかあるまい。もしかしたら外に繋がる道を見つけられるかもしれない。
そしたら、この遺体も弔うことが出来る。
そんなことを思いながら洞窟探検に洒落込むべしと俺は本を自らの豊満な胸に抱き歩き出した。ゆっさゆっさと大きな胸が後から付いてくる変な感覚がする。
初めは気にもならなかったが一度意識すると気になって仕方がない。
そんな感じだおっぱいに気を取られていると驚くべき事に四、五分歩いたら外に出てしまった。
そして、俺の目の前にはだだっ広い草原が広がっていた。
不意に清々しい風が頬を撫でその風の流れと共に草原が波を作り出す。漂う空気はほのかに草の香りがし鼻孔をわずかに刺激する。大きく広い青空にはさんさんと輝く太陽が浮かんでおり。俺の身体に太陽の暖かい光が注がれる。なんて心地良い雰囲気なんだろうか……
俺は目一杯深呼吸と伸びをした。そして、リフレッシュされた脳内で新たな疑問が浮かぶ。
「なんで、あの骨はこんな入口付近で死んでたんだ?」
そう思った瞬間、頭を抱えてしまった。
そして、振り返り今出てきた洞窟の全体像を確かめる。
大きく切り立った崖。崖と言うか山なのだろうか。ここらだとよくわからない。天辺が見えない。
もう少し離れたらわかるだろうが、果たしてそれは得策なのだろうか……
取り敢えず、思考を巡らす。大して頭がよろしい訳ではないが頭が悪いなら悪いなりに頭は使った方が良い。
まず、ここまで殆ど一本道だった。迷うはずはない。初見の俺が迷わなかったんだ。普通の知能が有る人間はまず迷わないだろう。
となると遭難した挙げ句の果ての死亡とは考えられなくなってくる。ならば考えられるのは「この洞窟に死ぬまで留まらなければならない理由」があったのか。あるいは「この洞窟から出ることが出来ない程に外が危険」なのかだ。
はたまた「この洞窟には隠された何かヤバイ何か」があるか……
あるいは「それ以外のなにか」か……
ふふふ、全くもってわからねぇぜ。俺のオツムではこれが限界。まったくお手上げだ。
それに、もう外に出てしまっているのだからどうしようもない。大丈夫大丈夫!!いきなり、ドラゴンが来てパクッ!!なんて事にはならねぇよ、きっと。
俺は楽観的な思考をなるべく頭の中に留めたまま、天から射し込む太陽の光を眺めた。
雲一つない青空。あ…… 嘘、あっちの方に少し雲があったわ。取り敢えず空を眺めてみてヤバそうな生物がいないことは確認する。
「となると、今度は洞窟の中の方が怖くなって来たな……」
恐る恐る、振り向き洞窟の中を覗く。中は暗くジメジメしている。何か恐ろしい生物がいてもおかしくない様相はしている。
俺がスッポンポンで歩き回っている時は運良くエンカウントしなかっただけでヤバイ生物がいるかもしれない。
どうするチュパカブラとかいたら。
ヤバイよヤバイよ。
その時、不意に洞窟に残してきた遺体の存在が脳裏を過った。
ううむ、そうなんだよ。あの骨を放置するのは何か気持ちが悪い感じがするんだよな……
ええい、やるしかあるまい!!
あれだあれ! テントがあったからアレに骨を包んで一気にここまで持ってきてしまおう。ダッシュで行ってダッシュで戻ってくる。これでたぶん完璧!!
そうとなれば善は急げだ。
さっさと済ませてしまおう。
これ以上下手に考えると動けなくなりそうだ。馬鹿なフリして、ビャッと行ってビャッ!! と帰って来てしまおう。
しゃー!! 洞窟に戻るぞコラー!!