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幻想のグリモアール  作者: ふたばみつき
第3話 真夜中の貧民街~midnight slums~
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第三十四頁 決着

 巨大化したボアちゃんの下敷きになった狼は、その頭部だけを肉と地面の狭間から出し、息も絶え絶えの様子で口を開いた。

 

「くそ…… 俺としたことが、油断したぜ……」


 どうだぁ、こらぁ!!

 ワイの勝ちや、ボケカスコラァ!!


 と、言いたい所だが、そこはグッと堪え、神妙な面持ちで俺はその狼、もといユヅキを見下ろした。


「さあ、早くお金を返して下さい!! 返してくれたら、この猪をどかしてあげます。だから、早く、お金を返してください!! でないと貴方は死んじゃいますよ!!」

「なっ…… なんだとぉ!?」


 そう言うと、狼はこちらに驚愕の視線を向ける。


 まあ、ここまでやっといて、お金さえ返せば許すよ、ってのもおかしいか……

 ただ、残念なことに俺はそこまで徹底して冷酷にはなれない。我ながら甘ちゃんなんだろう…… 


 だけど、俺はそれでいい。


 命を大切に、そうスミスさんとシーナさんに言われた。だからこそ、俺は自分の命をだけじゃなく、人の命も出来る限り尊重したい。


 それが盗人であっても……


「お前、正気か…… 俺は人狼だぞ。人に仇なす魔物だぞッ!! それを見逃すって言うのかッ!?」


 彼のその表情から驚愕の色がうかがえる。


 俺は人狼ってのは「そう言うもんなのか」と眉をしかめてしまう。

 正直、人狼だの、魔物だの、魔獣だのが、どういう扱いをされているのか全くわからない。


 なにせ、俺はこの世界に来たばっかりなんだ……


 もしかして「見つけしだい、殺せ!!」と言う感じなのだろうか。もし、そうなら俺のしていることは明らかにおかしな事で、人類に仇なす行為なのだろう。


 ただ、あの本には「その擬態性能を遺憾無く発揮し人間社会に溶け込む」とか「人間では太刀打ちできない」等とは書かれていたが、人を喰うだのとは書かれてはいなかった。果たして、人狼とは一体どんな生物なのか。それがいまいちわからない。


 俺はどうするのが正解なんだ?

 このユヅキと言う名の人狼を放置していいのか、それともここで……


「ア、アニキを助けてくれッ!!」


 その時、叫び声にも似た声が俺に届いた。


「盗んだのは俺だ、アニキは関係ねぇ!! だから、アニキの事は見逃してくれッ!! 金だって返す、だから、アニキの命だけは助けてくれ!!」


 見ると、蜥蜴人間がコチラに向かって駆け出している。


 その表情は今にも泣きそうな顔をしている。そして、その手には俺から盗んだ袋が握られている。


 そんなお涙頂戴みたいな展開があるのかと、正直に感心してしまう。どうやら、彼等はただの盗人ではないようだ。


 自分の鼓動が高鳴るのがわかる。


 もしかしたら、心のどこかで、作り話みたいな展開を俺は期待していたのかもしれない。

 

 その蜥蜴は俺の前まで来ると、お金の入った袋を地面に置き、膝と手を地面に付け、最後に頭を地面につけてみせた。


「アニキはスラムを仕切る為に必要な存在だ。だから、アニキの事はどうか見逃してほしい。俺はどうなってもいい、だからアニキは許してやって下さい。元々、アニキは……」


 その蜥蜴の言葉を遮るようにユヅキが怒号を発した。


「テメェ、それ以上言うんじゃねぇぞ!」


 その声に蜥蜴は僅かに怯むが直ぐに食って掛かるような表情で、自らのアニキであるユヅキを見た。


「でも、アニキ!! アニキが居なくなったら!!」

「言うんじゃねぇって言ってんだろ!!」


 再び、ユヅキの怒号が響いた。


 そして、それを聞いた、蜥蜴は苦虫を噛み潰したような表情を見せ、残念そうな表情を作ると、そのまま項垂れてしまった。


 なんだか、俺の知らないところで盛り上がっているみたいだ。

 まあ、世間なんてそんなもんか……

 

 どうやら、何か訳ありみたいだし。はてさて、どうしたものか。


 俺は二人を眺めながら思わず首を傾げてしまった。

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