第三十二頁 戦え、タスクボア!!
「びぎぷぅ」
そんな鳴き声と共にうり坊がその小さい身体をプルプルと震わせる。
うぅ、可愛い……
でも、思てたんと違う……
俺は思わず頭を抱えて地面にうずくまってしまう。
すると、うり坊が俺を母親とでも思っているのか、おもむろに近づいて来た。そして、つぶらな瞳でコチラを見上げてくる。
どうする、アイフル~ って感じで……
はうぅ、可愛いぃ……
そんな矢先、男の声が響いた。
「はっはっは、なんだそりゃ!! テメェ、ふざけてんのかよ!!」
「ふざけてないもん!!」
声をした方向を見ると、黒い大きな狼がコチラを睨み付けている。そう、スラムの頭目。ユヅキ・クロフォードである。
対して、コチラにいるのは可愛らしいうり坊だ。本当に可愛い。
まさに月とチワワですわ。
役者だけなら、も◯のけ姫が始まりそうだよ……
アチラの配役は文句無しだが、コチラはうり坊だから、役者不足も甚だしい。
狼はコチラの様子を見てひとしきり笑うと、おもむろに口を開いた。
「まあ、いいさ。そのうり坊もまとめて喰ってやるぜ!!」
そう言うと同時に、その狼は凄まじい勢いでコチラに飛び掛かってきた。
その時、不意に前回の状況が脳裏に浮かんだ……
そうだ、まだやってないことがある。
俺は瞬時に立ち上がると、本に手を重ねた……
そして、俺の中にある力を本の中へと全力で流し込む。
この力が何かはわからない。だけど、確かにその存在を感じる。
俺はその力の存在を確かに感じながら、さらに力を本へと流し込んだ。
すると、それを待っていたかの様に俺の身体からは蒼い光が次から次へと溢れれ出して来た。そして、それに呼応するかのように、目の前のうり坊がみるみる大きく成長していき、あっという間に巨大なタスクボアへと姿を変えた。
「よし、やった!! い、行けぇ、やっちゃえ!! えっと、あっと、ボアちゃん!!」
「ブギィィィーーー!」
そのいななきと共にボアちゃんは凄まじい勢いで、狼に向かって突進して行った。
その様はまさに弾丸。弾頭。生肉ロケット。
ボアちゃんロケットはその凄まじい速さで、その地を蹴り、一瞬で狼との距離を縮め衝突した。
「ぐあっ!!」
「ピギィィィィーーー!!」
両者の叫び声が夜空に響き上がる。
それと同時に狼が宙を舞う。
思わず勝ちを確信し笑みが溢れる。
しかし、その瞬間。狼の瞳がコチラに睨み付けた。
そして、それは地面に着地する瞬間、目にも止まらぬ速さで駆け出すと、ボアちゃんの背中に回り込み、その後ろ足に噛みついた。
「ピギィィーーーー!!」
その瞬間、ボアちゃんの悲鳴が夜空にこだまする。しかし、彼ももなすがままにされる訳もなく、雄叫びを挙げると同時に身を翻し狼に噛みつこうとした。
しかし、狼は素早く飛び上がり、ボアちゃんの背中を飛び越え再び背後を取ってみせた。
不味い、これはパターン入った!!
これを繰り返されたら、完全に負ける。
どうする、前回みたいに力を全力で注ぎ込み続けて、デカくなった所を狙って潰すか!?
ダメだ、あの俊敏さ、絶対に逃げられる。どうにかして、逃げられない状況を作らなければ。
どうする、どうする……
早く、何か思い付かなければ、ボアちゃんが……
ボアちゃんが生肉になっちゃう……
その時、ボアちゃんの悲鳴が再び夜空に響いた。
だが空しくも、その叫び声は闇夜に吸い込まれて行く。
その夜空を見た瞬間、ある作戦が思い付いた。
そうだ、もしかしたらコレで行けるかも……
いや、でも上手くいくだろうか。いや、今はそんなこと言ってる場合じゃない!!
「やるしかないんだ、やるんだ!!」
俺は自分に言い聞かせる様にそう呟くと、本に手を重ねた。
先ずは第一関門。
これが出来なけりゃ御仕舞いだ。
だけど、大丈夫。何故だかわからないけど、出来る気がする。
その想いと共に俺は声を発した。
「ボアちゃん!! 戻って!!」




