第三十一頁 人狼、ユヅキ・クロフォード
スラムの頭目、ユヅキ・クロフォード。
彼が驚愕とも怒りともつかない表情でこちらを睨み付けている。
「テメェ、なんで俺が人狼だとわかった?」
その問いかけに俺は思わず驚愕してしまう。
お前が人狼だったんかい、と……
だが、それならこの本が反応したのも納得出来る。やはり、この本は魔物や魔獣に反応して、その情報を記す能力があるみたいだ。
正直、まだ解明出来てない部分が多いが、本だけにほんの少しでもわからない事が解明されたのは大きな進歩だ。
俺はこちらを睨み付けている、ユヅキと名乗った男にバレない様に本をチラリと盗み見た。
【人狼★★★】
【人の皮を被り、人を欺く存在。亜人、獣人とも別種の存在。その種をあえて言及するならば“魔獣”と“魔族”の中間の存在と称するべきだろう。彼等は非常に高い知能を持ち、その擬態性能を遺憾無く発揮し人間社会に溶け込む。人狼の姿となった彼等の牙や爪は並みの狼より研ぎ澄まされており、人間では到底太刀打ちできない】
ああ、もう太刀打ちできないって言われてらぁ……
もう御仕舞いだぁ……
俺は思わず顔を歪めてしまう。
「なるほど、その本が何か関係してるんだな……」
「え!?」
俺の僅かな視線の動きから察したのか、ユヅキは俺の本が怪しいと言うことを一瞬で見抜いてみせた。流石に「非常に高い知能を持ち」って言われるだけある。
或いは俺が馬鹿丸出しだったかだ……
「ふん、白々しい真似をしやがって、丸見えだってんだ。だが、俺が人狼とバレちゃあ見逃す訳にはいかねぇな……」
成る程、どうやら俺が馬鹿丸出しだったようだ。
彼はそう言うと、手をおもむろに地面に付けた。
するとその瞬間、彼の身体から瞬く間に黒い毛が生え出し、その肉体を徐々に狼へと変貌させて行った。
「悪いがお前には死んでもらうぜ……」
目を見張る程に美しい黒い体毛。
まるで、そこだけが光を吸収しているのではないかと思える程の漆黒。そして、そこから覗く大きく巨大な牙。
恐怖を覚えると同時に美しいとすら思える肉食獣特有の金色の瞳。
不意に洞窟で見た、あの瞳と重なった。
思わず、足がすくむ。
しかし、すんでの所で意識を奮い起たせる。
あの時の俺とは少し違う。
ここで逃げるつもりは全くない。
それに明白に感じる事がひとつだけある。
この狼の目は、あの洞窟で見た目よりも恐怖度は明らかに低い。
そうだ……
いつかはアレに挑もうと言うのだ、この程度で腰を抜かしていては話になら無い。
それに、俺には秘策がある。
それを、今ここで試す!!
俺は本に手を重ね、集中する。
そう、感じる。
この本に眠る力の拍動を……
そして、その力の持ち主の名は……
「来て!! タスクボア!!」
俺のその言葉と同時に、本から眩い程の蒼い光が放たれた。
そして、その光の中から、それは現れた……
「プピプー」
そう、それは一匹の、とてもとても可愛いうり坊だった。
「ああ、思ってたんと違う……」
俺は思わず頭を抱えて地面にうずくまってしまった。




