第二十九頁 屋根の上のアイラ
僅かな月明かりが屋根を照らしている。
そして、屋根の上であるが故の不安定な足場が俺の足元には広がっている。
さらに俺の視線の先では、スミスさんとシーナさんから貰ったお金を持った蜥蜴野郎が軽やかな足取りで走っている。
「待てこら~ この蜥蜴野郎~!!」
「テメェッ!! 蜥蜴じゃねえって、言ってんだろッ!!」
不安定な屋根の上を蜥蜴野郎は器用に走り抜けている。
かく言う俺は、情けないことにドタドタと拙く危なっかしい足取りで屋根の上を走っている。我ながら、いつ転んでゴロゴロと屋根から落ちてもおかしくない。
「くっそ~ 地面の上なら絶対に負けないのに~」
自分で言っていて虚しくなる程の負け惜しみだ。
我ながら悲しくなってくる。
しかし、俺の祈りがあんまり信じてもいない神に届いたのか。徐々に周りの建物の高さが低くなってきた。
心なしか、かなり周りの建物の構造も簡素な物になっている。下手したら着地した瞬間、屋根をぶち破ってしまうのではないかと思える程に造りが雑で粗末だ。
見ると、蜥蜴野郎は既に屋根から降り、地面を走っている。
俺もそれに追随するように屋根から飛び降り地面を疾走する。
辺りを見渡すと路面の舗装が所々剥がれており、地面が剥き出しになっていて、地面もなんだか、ボコボコと隆起している。
それに周りの建物はどんどん造りが荒くなっている。中には既に建物としての形を保っていない物すら見える。
ここは恐らく、スラムと言った所だろう。
ザックさんはスラムには絶対に入るなって言っていたがどうするか。ここまで来て、あの蜥蜴野郎を逃がすのか? それとも、このままアイツを追うか? 一体、どうすればいい?
そうこう悩んでいると、当の蜥蜴野郎が路地裏へと逃げ込んだ。
ええい、ままよ!!
こそ泥を許してなるものか。必ず、かの邪智謀虐の蜥蜴野郎を除かなければならぬ!! 蜥蜴野郎、滅ぶべし!! ブッ殺してやる!!
俺は意を決して蜥蜴野郎が逃げ込んだ路地裏へと飛び込んだ。
「トカゲッーー!! 待ていッ!!」
「だから、蜥蜴って言うんじゃねぇ!!」
見ると、蜥蜴野郎は呑気なことに路地の奥で俺を待ち構えていた。
どうやら、やっと観念したと言う訳では無いみたいだ。
何せ、蜥蜴野郎の周りには、その仲間と思われる集団が集まって、こちらをあざけわらっていたからだ。
奴等、一体なんのつもりなんだ……
もしや、えっちな同人誌みたいなことをするつもりか!!
「へっ、こんな端金の為にここまで来る馬鹿とは思わなかったぜ」
蜥蜴野郎はそう口にすると、その大きな口を不気味に歪め、不敵な笑みを浮かべてみせた。




