第二十三頁 教会そして地下墓地
教会は石造りの大きな建物で、その近くには幾つもの墓が建っていた。どうやら、霊園としても機能しているらしい。
やっぱりというか、なんというか厳かな雰囲気を感じる。
「マシマロ、こっちおいで……」
「もあ~」
俺は取り敢えず、マシマロがどっか行かないように抱き上げた。
もう、本も抱いて、遺骨も抱いて、マシマロも抱いて大変だ。
ふと、辺りを見渡すと霊園の見回りをしているのだろうか、白い髭をはやした初老の男性が墓を眺めていた。
恐らくあれが神父さんだろう。
神父さんの服。確かキャソックと言ったか、それを身に纏っている。どことなく物腰も柔らかで教養の有る知識人とした雰囲気を纏ってる様に感じた。
「すいません、共同墓地にこの遺骨を納めたいのですがよろしいですか?」
ロランさんが、そう口にすると神父さんはこちらにゆっくりと近づいて来た。
神父さんは俺達の元にやって来ると、大きくゆっくり二度程頷くと、ゆっくりとその重々しい口を開いた。
「おお、神の御霊を敬いしその心、きっと貴方を救うことでしょう」
なんだか、その緩慢とした仕草が妙にわざとらしい。
そして、神父さんは芝居がかった様子で胸に手を当てると、さも申し訳なさそうな顔を作って見せた。
「ですが、申し訳ありません。共同墓地の使用料として最低限の寄付金をいただいております。どうか御慈悲の程のよろしく賜ります。そうなされば、神もきっとお喜びになるでしょう」
そして、神父さんが「お金頂戴」のポーズをした。
うっせぇ、ブッ飛ばすぞこのヤロー。救ってくれるんなら、先ずは棒になっちまった俺の足を救いやがれ。そして、俺を元の世界に戻しやがれ。
今までのは全部、夢でしたって奴をやってくれ。
と、思わず言おうとしたが、そこはグッと堪えてみせる。
俺はこの野郎と思いながらも、スミスさん達から貰った袋を取り出す。そして、取り敢えず銅貨を数枚だけ手に取って見せる。
見ると、神父が露骨に眉を潜めていた。
いや、もうその時点で最低限じゃないじゃん。
と、思わず言おうとしたが、そこはググッと堪えてみせる。
俺は再びこの野郎と思いながらも、袋から銀貨を一枚加えて見せた。
見ると、神父は満面の笑みでコチラを眺めて「うんうん」と頷いている。
露骨だな、こいつ……
まあ、いいけど……
「あの、コレでお願いします」
「ええ、承りました……」
神父は一度頭を下げると、俺から金を受け取った。
「ではこちらに……」
そう言うと神父は霊園の方へとそそくさと歩き出した。
俺達は取り敢えず、その後を付いていくと、やがて不思議な祠の前で案内された。
見ると、そこは地下への入口になっているらしく、石で造られた階段が見える。
「さあ、ここが共同墓地になります。足元、暗くなっておりますゆえ、お気をつけ下さい」
そう言うと神父は今までと変わらぬ足取りで地下へと潜っていった。俺達もそれに続いて地下へと降りていった……
なんだか地下は肌寒く、どこか湿っている感じがする。周りは暗くなっており、まともに視界は確保できない。しかし、神父は何を頼りにしているのか、そそくさとした足取りで進んでいく。
もしかして、この神父さん、凄い人?
「エルスの民よ、祖の御霊に憑きし闇を払い賜え」
神父さんが何か呪文の様な物を唱えると、その指先から光の球が放たれ、壁に掛けてあった松明に明かりを灯した。
俺は、あまりの事に息を飲む。
「あれ、もしかして魔法ですか?」
俺はザックさんに耳打ちして聞いてみた。
しかし、彼もよくわからないらしく首を傾げてみせた。
「魔法ではないらしい。奇跡の類いだって聞いたことがある。まあ、俺等からしたら同じようなもんだがね」
そう言うとザックさんは笑って見せた。
ううむ、わからん。魔術に奇跡ねぇ。一体何が違うのやら。俺も修行とかしたら出来るようになるのかな?
「何をしているんですか? さあ、こちらへ……」
声のした方向を見ると、壁に幾つもの窪みがあり、その中の一つを前にして神父が立っていた。
見ると、どうやら窪みの中に一人一人の遺骨が納められているみたいだ。
俺はおもむろに神父の元へと向かうと中を眺めた。
「ここが“彼女”の終末の地となります」
神父はそう言うと骨を窪みの中へと納めた。そして、何やらブツブツと唱えてみせている。
不思議とすんなり耳に入る心地の良い声色だ。
どこの世界も宗教とはこう言うものなのだろうか。
取り敢えず俺も手を合わせて、祈ってみることにした。この行動に意味があるかはわからないが、やらないよりはやった方が良いだろう。
この骨が誰なのか、何故あそこにいたのか。わからない事だらけだが、これでひと先ず、この遺体の人も安らかに眠りにつけるはずだろう。
そう願うしかない。
いや……
まて、そう言えばさっき。この神父さんは“彼女”と言った。なんで、そんな事がわかったんだ?
俺は思わず神父さんの方に視線を向けた。すると、彼も俺の視線に気付いたらしく、不思議そうな顔をこちらに向けた。
「どうしましたかな?」
「え、いや。あの、ど、どうして、この遺骨を“彼女”って言ったんですか?」
俺の問い掛けに神父さんは少し目を丸くすると、納得したのか深く頷いてみせた。
「女性の鎖骨は男性と比べると短い。そして、肋骨も腰にかけて細くなる様な形状をしています」
俺は神父さんの言葉を聞いて、今一度遺骨に視線を向けた。
はっきり言ってわからない。そんな気もするようなしないような……
神父さんはそんな俺を他所に更に続けた。
「他にも大腿骨の付け根、骨盤と結合部が長くなっているんです。以上の事から、私は“彼女”と断定しました」
「なるほど。だから、女の子の身体は肩幅が狭くて、お尻がおっきくなるんですねぇ」
俺はそう言うと思わず自分の身体を見回した。
性差による骨格の違いが、女性らしい身体を型どるのか……
「驚きました、あれだけの説明で理解しましたか」
見ると、神父さんは驚きながらも、何処と無く嬉しそうな表情をこちらに向けていた。
そして、そのままの表情で俺に向かって口を開いた。
「貴女は何処かで勉学を修めたのですかな?」
「え? いいえ?」
俺の答えを聞くと、神父さんはさらに驚いた様子で俺を見た。
「それは勿体無い。貴女なら、何かしらの学問を専攻すれば、一廉の知恵者になれますよ。もし気が向いたら、学院になり足を運ぶことをお勧めします。きっと、貴女の人生が豊かになりますよ」
「は、はあ……」
取り敢えず、意味がわからないが、答えてはみる。
神父さんは、俺のそんな曖昧な返答でも満足はしたらしく、深く頷くと、先程来た道へ視線を向け、歩き出した。
「さあ、長居は無用です。あまり長居すると、亡者を起こしてしまうかも知れませんからね……」
そう言うと、神父さんは迷いの無い足取りで暗闇を進み、あっという間に地上へと出てしまった。
「“彼女”の御霊は精霊となり、きっと貴女を見守ってくれるでしょう」
神父さんはそう言うと、俺に向かって一礼し教会へと去っていった。
彼女の御霊が俺を見守ってくれる。
果たして、そうなのだろうか。
俺は一度、祠に振り返ると、手を組み祈る事にした。
ただ「そうあれかし」と……




